郡山りょう (立憲民主党)

2026年6月12日・第221回国会 参議院 本会議 第21号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 20 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 53 発言)

立憲民主・無所属の郡山りょうです。会派を代表し、ただいま議題となりました両法律案について質問をいたします。

私はこれまで、働く人一人一人の情報、生活実態、権利利益を守ることこそ社会の土台だと申し上げてきました。ところが、本日、その個人の権利利益を根本から揺るがしかねない法案が議題となっています。個人情報保護法の改正案です。

質問に入る前に、憲法上の大前提を確認させてください。

日本国憲法第十三条は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めています。学説、実務の両面で広く支持されているとおり、自分の情報がどのように扱われるかを自ら決める権利は、この第十三条を根拠とする基本的人権です。

個人の病歴、信仰、犯罪歴などが外に漏れれば、その人の尊厳が、人生そのものが、取り返しの付かない形で傷ついてしまいかねません。だからこそ、これまでは個人情報の取得や第三者への提供に本人の同意を得ることが大原則とされてきました。

しかし、今回の改正案は、統計作成等という曖昧な目的規定の下で、本人の同意なし、つまり本人が全く知らないうちに個人情報を企業などに提供することを認めるものです。個人の人権を余りにも軽く扱っていると言わざるを得ません。

今国会では、国家情報会議設置法案が成立し、権限の歯止めのないまま官邸などが大量の情報を取得できる仕組みが整いました。本法案が成立すれば、国民の個人情報が国や大企業に大量に吸い上げられる仕組みが一度に整備されることとなります。

注目すべき事実があります。既に現行の次世代医療基盤法の下で、内閣府が厳格に審査、認定した事業者が、百六十五の医療機関から約六百十八万人分の医療情報をオプトアウト方式で収集済みです。

次世代医療基盤法と異なり、今回の改正案は、情報を匿名化する必要がなく、事業者の認定制度もありません。つまり、極めて大量の生の個人情報が企業等に提供されることが予測されます。扱われているのは、データではなく、人権そのものです。個人情報を止めどなく拡散させる危険性があるのではないでしょうか。松本大臣にお伺いいたします。

次に、要配慮個人情報の取扱いの大幅な緩和についてお伺いします。

要配慮個人情報とは、信仰、病歴、犯罪歴、障害、健康診断結果など、差別につながり得る特にデリケートな情報です。妊娠中絶、認知症、精神疾患、遺伝病もこれに含まれます。

改正案の第三十条の二及び第三十一条の三は、統計情報等の作成にのみ利用される場合は、本人の同意なく要配慮個人情報を取得、第三者提供できるとしています。日本医師会は改正案を極めて危険と表明し、歯科医師会、薬剤師会もにわかに容認できないと反対をしています。

令和八年五月十二日の衆議院委員会で、佐脇政府参考人は、AI開発や調査のために加工されていない個人情報を提供する場合も、この特例の対象になると明確に答弁されています。つまり、等の一文字が、AI開発から疫学調査まで、ほぼ無制限に個人情報を吸い上げることを可能にする抜け穴になっています。

そこで、三点お伺いします。

携帯の位置情報、氏名、端末番号、緯度経度、時刻を含む、はこの特例の対象になるのか。新型コロナウイルスの疫学調査データ、氏名、地域、年齢、性別、病歴を含む、も対象となるのか。そして、これは国が都合よく使うための包括的な授権規定ではないのか。松本大臣に明確な見解をお伺いします。

ここで、重要な法的事実を確認させてください。

医師、薬剤師などが医療現場で取得した患者情報については、刑法第百三十四条第一項が個人情報保護法とは独立して適用されます。保健師、看護師、診療放射線技師なども、各専門職法により同様の守秘義務を負っています。

ところが、今回の改正案は、医師などが刑法上の守秘義務を負っている情報が一旦事業者の手に渡った後の取扱いを大幅に緩和するものです。医師の守秘義務をくぐり抜けるパイプラインを制度としてつくり上げてしまうことにならないか、松本大臣にお伺いいたします。

より根本的な問いを提起します。政府は情報の入口での適法性を強調されますが、問題の本質はそこにございません。

病院という信頼の場で、患者が医師に打ち明けた病歴、精神疾患、遺伝情報。その情報は、刑法第百三十四条の守秘義務に守られ、医師だから話したという絶対的な信頼の上に成り立っています。その情報が一たび事業者の手に渡れば、本改正案はそのよろいを脱がせることができます。統計作成等という名目があればよいのです。本人の同意なし、加工なしでAI学習に使うことさえできる。佐脇政府参考人が令和八年五月十二日の衆院審議で明確に認めたとおりです。

構造はこうです。入口では適法な提供と装い、受皿となる事業者の側では、統計作成等を理由に要配慮個人情報のひも付けや未加工でのAI学習が本人の同意なしに許される。これはつまり、医師を信じて話した患者の信頼を裏口から横流しできるパイプラインを国が法律でつくり、認可することにほかなりません。入口の手続がどれほど整っていても、出口で信頼が裏切られるなら、それは守秘義務制度の骨抜きです。

更に言えば、本改正案の下では、不本意にも医師が刑事罰を受けるリスクも生じかねない、刑法第百三十四条が百年以上守ってきた患者と医師の信頼関係を、本改正案は制度の裏側から静かに解体しようとしている、そう申し上げても過言ではないと考えます。松本大臣、この認識は誤りでしょうか。明確な御答弁を求めます。

令和八年五月十二日の衆院審議において、長妻昭委員の質問に対し、松本大臣は以下のとおり答弁されました。

地方自治体が統計作成等で利用する場合、住民の非公開の病歴を本人の同意なしに取得可能であること、国が統計作成等で利用する場合も同様であること、企業、個人事業主が統計作成等で利用する場合も可能であること、これらが政府の公式の説明です。

つまり、病院にかかっている患者さんの病歴が本人の知らないままAI開発企業に渡る、こういうことが本改正案の下で起こり得るということでしょうか。しかも、氏名、住所、病歴が一体となったデータが事業者に渡った後、氏名を消すかどうかは事業者の安全管理義務の中で適切に判断するとのことです。法案には識別子削除の義務規定は書かれているのでしょうか。松本大臣にお伺いいたします。

また、海外事業者への提供も可能な枠組みであるにもかかわらず、現時点では病院等からの海外企業への個人データ提供件数の実態把握が存在しないことも確認されています。個人情報保護委員会規則やガイドラインという行政内部の基準で、国会のチェックが届かないところで決めることになります。これでは立法府の統制が及ばないのではないでしょうか。

識別子削除の法定義務化と海外移転の実態把握、公表について、松本大臣に明確な答弁を求めます。

現行の次世代医療基盤法では、医療情報を研究開発目的でオプトアウト収集できる事業者は、内閣総理大臣、文部科学、厚生労働、経済産業の各大臣による厳格な審査、認定を受けた者に限られています。認定を受けた事業者の従業者には、罰則付きの守秘義務と個人情報保護委員会の協議が義務付けられています。その結果、令和八年三月末時点で百六十五の医療機関から約六百十八万人分の医療情報が収集済みとのことです。

今回の統計作成等特例は、この次世代医療基盤法の認定制度を経ずに、より広範な事業者が要配慮個人情報を取得できる別ルートを新たに開くものではないでしょうか。

懸念すべき点があります。この特例の利用要件の確認は、提供元の自己確認のみで足り、個人情報保護委員会の事前認定は不要とされているのです。そうであるなら、次世代医療基盤法が国民に約束をした、主務大臣が認定した事業者以外には渡さないという保護水準を根本から崩すことにならないでしょうか。既に六百十八万人分の医療情報が認定制度の下で収集されているのだとすれば、本改正案によってこれが更に何倍にも拡大し得るのでしょうか。松本大臣に明確な説明を求めます。

令和六年十二月十七日公表の個人情報保護法のいわゆる三年ごと見直しに関する検討会報告書では、差止め請求制度が検討されていました。令和七年三月五日付けの個人情報保護委員会作成資料にも、差止め請求権を適格消費者団体自身の権利として付与することが考えられると明記されていました。ところが、改正法案には、その記載が一切盛り込まれませんでした。

ここで、国外に目を向けると、例えばEUのGDPR第八十三条では、制裁金として最大で全世界年間売上高の四%又は二千万ユーロの高い方が科されています。また、G7の全ての国に差止め請求に相当する仕組みが存在しています。

このように、G7各国及びEUでは、差止め請求に相当する仕組みと厳格な制裁金制度が整備されています。

今回の改正案で課徴金の対象となるのは、千人超という大規模違反かつ違法収益がある場合だけです。安全管理義務違反、目的外利用、要配慮個人情報の不正取得は課徴金対象外です。全国消費者団体連絡会は、漏えいの多くはずさんな安全管理に起因するため、この後退は大規模な漏えいへの抑止力を大きく弱めると明確に指摘をしています。

政府はスモールスタートで始めると言いますが、六百十八万人分の医療情報が既に流通をしています。これのどこがスモールなのでしょうか。大規模な漏えいが多発するリスクに備え、海外主要国と同レベルでの法整備をすべきです。

個人情報保護委員会自身が必要と認めた差止め請求制度がなぜ消えたのか、松本大臣にお伺いをいたします。

かつて岐阜県で、風力発電に反対した住民の病歴を警察が収集していた事実があり、裁判所が削除を命じた確定判決が出ています。国家が統計作成等を口実に国民の病歴を収集できる仕組みは、こうした権力の悪用に道を開くものです。

今ここで私たちが議論をしているのは、憲法が保障する権利を将来の国民へ継承できるかに関わる問題です。病歴、信仰、犯罪歴を含む要配慮個人情報が本人の同意なく流通する社会を将来の国民に残してよいのか、この問いを忘れてはなりません。

ここで見過ごすことのできない事実を申し上げなければなりません。これほど重大な懸念が、日本医師会を始めとする専門職団体、日本弁護士連合会、労働組合の連合、消費者団体から相次いで示されているのにもかかわらず、本法案の提出責任者である高市総理御自身がその懸念を把握しておられないという事実です。

令和八年六月四日の予算委員会において、本改正案に対する懸念を問われた高市総理は、懸念等について説明は受けておりませんと答弁されました。法案の核心にも関わる危険性について、提出責任者たる総理が説明すら受けていない、これは極めて重大な事態ではないでしょうか。

内閣法第五条では、内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案を国会に提出すると定めています。内閣を代表して法案を国会に提出すべき総理が、その重要事項について説明を受けず、危険性を認識しないまま閣議決定し、国会に提出された。そうであるならば、本法案の提出手続そのものの正当性が根本から問われるのではないでしょうか。

閣議決定の前提を欠いたまま、参議院での審議だけが先へ先へと進んでいく、私はここに強い疑義を呈さざるを得ません。

今この参議院に求められているのは、月内成立を急ぐことではありません。提出責任者たる総理が、まずきちんと説明を受け、本法案がはらむ危険性を正面から認識すること、その上で、一度立ち止まり、法案を撤回して出し直すこと、それこそが提出者たる政府の責任であり、この政府の責任を果たさせることが立法府に求められていることではないでしょうか。法案提出のプロセスについて、お考えを松本大臣にお伺いしたいと思います。

最後に、四点お伺いします。

第一に、病歴、信仰、犯罪歴等の要配慮個人情報について、AI開発目的での本人同意なき取得、提供を認める規定を、少なくとも氏名、住所等の識別子削除を法律上義務付ける形に修正する意思はありますでしょうか。

第二に、差止め請求制度について、適格消費者団体等による新たな仕組みを含め、次の国会で立法化する意思はありますでしょうか。

第三に、統計作成等特例に係る個人情報保護委員会規則の制定に当たり、国会への事前報告、審査の機会を設ける意思はありますでしょうか。

最後に、次世代医療基盤法が課している四大臣の事前認定、罰則付守秘義務を本改正案の統計作成等特例は課していません。ルートが別かどうかではなく、国民を守る保護水準が実質的に引き下げられているのではないでしょうか。

松本大臣、四点について、それぞれ明確にお答えください。

データが優位な時代だからこそ、個人の尊厳と権利利益を守ることは民主主義の根幹です。人権保護なきデータ利活用は国民の信頼を失い、同時に、AI社会の発展をも阻害をします。政府がデータ立国を掲げるなら、同時に人権立国でならなければならない。そのことを強く申し上げまして、私の質問を終わります。

御清聴ありがとうございました。(拍手)

〔国務大臣松本尚君登壇、拍手〕

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