上山泰新潟大学法学部教授

2026年6月11日・第221回国会 参議院 法務委員会 第14号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 5 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 110 発言)

新潟大学の上山でございます。

本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。

私は、法制審議会民法(成年後見等関係)部会委員として調査審議に参加しておりました関係で、今回は成年後見制度の改正に論点を絞って所見を述べさせていただきます。

今回の改正案を貫く最も基本的な目標は、成年後見制度を利用者側の目線に立った利用しやすい仕組みへと改めることです。

それでは、逆に一体どこが利用しづらいのかというと、今の仕組みは柔軟性に欠けていて、状況の変化に応じた融通が利かないのだという声が強かったわけです。

法定後見について言えば、この指摘は二つのないに象徴されます。終わらない後見と変わらない後見人です。

終わらない後見という悪評は、本当に必要なときに本当に必要な範囲で使える仕組みであってほしいという利用者側の希望の裏返しにほかなりません。そうであれば、この問題の解決は、単に制度終了の要件を変えるだけでは足りません。

まずは、そもそも利用開始に当たって、御本人の権利擁護に、つまり補助人の権限、同意権や取消権、代理権が本当に必要なのか、仮に必要だとして、具体的にどの範囲で必要なのかをできる限り丁寧に解き明かしておかなければなりません。なぜなら、ここでこの判断をざっくりと、例えば認知症がかなり進んでおられるからといった具合に抽象的に判断をしてしまうと、認知症が回復しない限り制度が終わらなくなってしまうからです。

御本人の判断能力だけではなく、生活状況なども踏まえた上で、利用の具体的な必要性を確認し、その範囲で補助人の権限をオーダーメード的に設定していく、これが今回の制度設計の基本原則である必要性の原則です。

S、M、Lの三つのサイズのTシャツしかなければ、人によってはいかにも窮屈だったり、逆にぶかぶかだったりするでしょう。小さいサイズを無理やりに着せるのは難しいので、大は小を兼ねるの発想で、大きなサイズを着せてごまかしてしまうことになるかもしれません。

これを後見に引き直せば、支援者が何でもできる後見の意見にしておくのが無難だろうとなりがちなわけです。しかし、これは自己決定への過剰な介入ではなかったかという反省も必要性の原則の導入には込められています。

変わらない後見人問題も、御本人の生活環境が変わったのに支援者を簡単には交代してもらえないというまさに硬直性への不満から生まれたものです。これには、本人の利益のために特に必要がある場合には、補助人に不正行為などの義務違反がなくとも解任できるという、欠格事由と結び付けない新しいタイプの解任事由を導入することで対応しようとしています。

もう一つの重要な制度設計の基本指針が、御本人の意思をできる限り制度の運用に反映させることです。

この点では、本人意思尊重義務の修正が重要です。現行規定がとても抽象的なのに対して、法案は、補助人の権限行使に当たって、まずは御本人に情報提供をしてその御意向を把握しようとしなければならないというふうに、補助人が取るべき行動を具体的に示しています。こうした行動は実は意思決定支援の基本でもありますので、個人的には、この修正は実質的に補助人の意思決定支援義務を法制化したものと考えております。

さて、ここで我が国の成年後見の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。

明治期に導入された禁治産宣告制度は、判断能力の程度という唯一の基準で利用者を二つの鋳型にいささか強引に振り分ける仕組みでした。この振り分けに当たって、御本人の生活実態などは顧みられず、制度の利用のニーズは、判断能力の程度だけから抽象的かつ画一的に評価されていたわけです。

現行制度を導入した平成十一年改正は、新補助のベースであるオーダーメード型の補助を新設したことで、制度の柔軟化に大きく道を開きました。補助の陰に隠れて目立ちませんが、このとき、保佐の代理権もオーダーメード型の仕組みとして導入されています。

令和七年末時点で、保佐が約二三%、補助が約七%。約七割を占める後見に比べると確かに見劣りはするものの、それでも全体の三割の案件が実はオーダーメード型の権限設定の要素を含んでいます。

改正案は、新補助への一元化と必要性の原則の導入によってオーダーメードの仕組みを原則化したわけですが、これを可能としたのは、実は、補助と保佐におけるオーダーメード型の権限設定の四半世紀にわたる運用実績なのです。表面に現れた制度の見かけ上の大きな転換は、我が国の後見実務が地道に積み上げてきた成果を支えにしています。この意味で改正案は、例えば目新しい仕組みを海外からやみくもに輸入しようとするものではなく、むしろ現行制度を正当に進化させようとしている側面が強いと言えます。

同じことは制度の基本理念にも言えます。新制度も現行制度と同じく、弱いパターナリズムに基づく御本人の客観的な保護と御本人の自己決定の尊重のバランスを図ろうとしています。確かに新制度は、現行制度よりも自己決定の尊重に少し重心を置く形でバランスの取り直しを図ってはいますが、しかし、このてんびんの枠組み自体を壊そうとしているわけではありません。

任意後見にも一点だけ触れておきます。それは、新補助との併存が持つ意義です。

例えば、消費者被害の高リスク者事案では、補助を部分的に活用することで、任意後見だけではカバーし切れない取消権型保護の要請に対応できます。また、同じ人が任意後見人と補助人を兼ねることは当然できますし、補助人の選任時に本人の意見が考慮されることを考えると、任意後見契約がある場合には、任意後見人あるいは任意後見受任者が補助人に選任されることも多いでしょう。仮にこうした運用が一般化していけば、自分の信頼する人とあらかじめ任意後見契約を結んでおくことが、事実上の補助人の指名としての意味をも持ち得ることになると言えます。

時間の都合で触れることはかないませんが、今回の民法改正は、地域福祉の仕組みを支える社会福祉法改正と一体的に進められていることが極めて重要です。補助終了後の受皿問題は、地域福祉の充実がなければ、終われる後見が絵に描いた餅に終わりかねないことをはっきりと示しています。

私個人としても、成年後見制度利用促進専門家会議の一員として、第三期計画の策定などを通じて今後もこの課題に真摯に取り組みたいと考えております。

最後に、改めて、意見陳述の機会を与えていただきましたことに感謝を申し上げます。どうもありがとうございました。

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