滝沢智東京都立大学都市環境学部特任教授

2026年7月14日・第221回国会 参議院 国土交通委員会 第13号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 4 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 194 発言)

私は、上下水道を専門とする研究者の立場から、日本の下水道の普及と成り立ち、現在の課題、そして今後やるべきことといった順番で御説明をさせていただきたいと思います。

日本の下水道は、古くは明治に造られた神田下水のようなものもありますが、現在我々が利用している下水道の多くは昭和三十年代以降に造られたものでございます。日本の下水道は、都市への人口集中に伴う汚水の処理、処分の問題、都市開発による雨水の排除が重要な課題となり、その対策として普及してまいりました。その結果、今日では、国民の八二%が下水道を利用して、安心、安全で快適な生活を送れるようになっております。

日本の下水道は、昭和三十年以降のおよそ三十年間で急速に普及しました。これほど短期間で下水道が普及したのは、下水道法の制定を始めとした下水道に関する制度の確立、国による財政支援、地方自治体における熱心な取組と、何より市民の理解と支援があったためだと思います。

しかし、集中して整備してきた下水道施設は、供用開始から五十年後にはほぼ同時に老朽化が進み、これが今大きな課題となっております。下水道施設の老朽化については、下水道管の腐食が最も重要な課題です。

家庭から下水道管に流入する下水の中には、食品や各種の飲料に含まれる硫酸イオンが含まれています。この硫酸イオンそのものは有害性や腐食性はありませんが、下水道管の中で下水中に含まれている有機物により腐敗が進行し酸素がなくなりますと、微生物の働きによって下水中の硫酸イオンは硫化水素に還元されます。このようにして生成した硫化水素は、気体となって、下水の中から下水道管の気相部、空気の部分に揮発し、さらに、下水道管の頂上部、上の部分に付着し、今度は空気中の酸素に酸化されて硫酸に変わります。硫酸は御存じのとおり非常に強い酸性の物質でありまして、この硫酸がアルカリ性のコンクリート構造物である下水道管と反応して下水道管の腐食が引き起こされることが知られております。

下水道管の腐食に起因する道路陥没の問題は以前から知られており、五年に一度の頻度で腐食しやすい箇所を点検することが定められております。このように、点検、修繕を繰り返すことで、下水道管の破損に起因する道路陥没の回数は記録がある平成十九年以降減少しており、令和四年のデータによりますと、道路陥没件数は全国で約二千六百件となっております。ただし、そのうちほとんどが陥没深さ五十センチ未満の比較的浅い陥没事故でございまして、深さ一メートルを超える大きな陥没は全体の二%になっております。

このように、下水道管のうち腐食しやすい箇所については今日までに少なくとも一回の点検が完了しておりますが、下水道管内は常に下水道が流れた状態にあるため、人が入って点検、調査することが難しく、さらに通常の点検機器では十分に点検ができない点検困難箇所がございます。この点検困難箇所が、今後、陥没事故等の潜在的なリスクとなっております。埼玉県八潮市におきまして発生しました下水道管の陥没事故も、このような点検困難箇所の一つでございました。

埼玉県八潮市における陥没事故が提起したもう一つの問題は、大口径の下水道管の事故による社会的な影響の大きさでございます。この事故では、周辺の住民の生活や事業者の活動に影響が出たほか、約百二十万人の人が下水道の使用自粛を余儀なくされました。これらの社会的な影響を見て、多くの国民の皆様が二度とこのような事故を起こしてはならないと感じたことと思います。

下水道施設の老朽化に加えまして、令和六年一月一日に発災いたしました能登半島地震では、下水道施設も大きな被害を受けました。特に、下水道の要となる下水処理場、ポンプ場、大口径の下水道が被害を受けると、下水道システム全体が使用不能となってしまいます。これらのことから、下水道システムの中でも急所となるような施設の耐震化も、老朽化対策と併せて極めて重要な施策でございます。

以上に述べたことから、下水道施設、特に下水道管の老朽化対策と耐震化は、国民の安心、安全な生活を守る上で最優先で取り組むべき施策でございます。その際に、下水道の機能を維持するために重要であり、かつ社会的影響も大きい大口径の下水道管のうち腐食しやすい箇所を的確に把握して、その重要度に応じて、これまでの五年に一度の点検頻度を更に上回るような頻度でしっかりとした点検をするようにすることも必要でございます。

その際に、これまで自治体ごとにばらばらであった管路の安全性を評価する基準を国が統一的に定め、それを基に安全性を評価するといったことも必要でございます。また、下水道管理者の責務として、このように点検、調査した結果を市民に公表することも重要でございます。また、点検、修繕が困難な大口径下水管については、センサーなどのDX技術を開発し、これらを用いて異常を検知するほか、必要に応じて複線化等をすることで、災害や事故に備えることも必要です。

このように、大規模な下水道管及び下水道施設の再構築は、これまで想定していなかったことであり、将来の世代に安心、安全で災害に強い下水道施設を残すために必要な施策でございます。また、下水道管路や施設に使われる資機材は時代とともに高性能で耐久性の高いものになっており、既存の下水道を再構築することによって、これからも長く安心して使える下水道に生まれ変わらせるという効果もございます。

また、下水道管路の点検、維持管理、再構築を進めるためには、下水道管理者のみならず、下水道管理者と道路管理者が密接に協力し、さらに、道路下に埋設されている各種の管路の位置や情報、状態に関する情報を共有する必要がございます。

また、中小規模の自治体で技術系の職員を確保することが困難になっているという現状を踏まえて、これまで市町村が単独で行ってきた規模が小さい下水道においては複数の自治体が一体となって運営したり、更に規模が小さい自治体に対しては都道府県が管理を代行したりすることが有効な施策となります。また、人口減少が著しい地域では、下水道を維持し続けることが困難な場合、下水道区域を廃止又は縮小して浄化槽等に切り替えることが合理的な場合もございます。

下水道は、国民を支える最も基本的で重要な社会インフラでございます。今や当たり前となった水洗トイレの使用に加えて、高度に処理した下水道を放流することで、日本の河川や湖沼、沿岸海域の水質を保全するというような役割を果たしております。また、近年多発する線状降水帯による集中豪雨に対して、都市を内水氾濫から守り、市民の生命と大切な財産を守るという役割も果たしております。

このように、重要な役割を果たしている下水道施設の老朽化や耐震化を推進することは、市町村などの地方自治体のみの責務ではなく、国が自治体と協力して取り組むべき事業ではないかと思います。国を挙げて下水道の老朽化と耐震対策を進めることで、国全体の政策目標である国土強靱化にも大きく貢献できるものと考えております。

以上、御報告申し上げます。

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