桜井なおみ一般社団法人全国がん患者団体連合会副理事長

2026年5月19日・第221回国会 参議院 厚生労働委員会 第6号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 7 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 91 発言)

ありがとうございます。

本日は、貴重な機会をいただきましてありがとうございます。全国がん患者団体連合会副理事長の桜井と申します。

私は、二〇〇四年に三十代で乳がんの診断を受け、手術、化学療法、その後十年間の内分泌療法などを経たがんの体験者であります。また、再発なども経験をしております。

本日は、健康保険法等の一部を改正する法律案について、特に高額療養費に関する記述を中心に意見を述べさせていただきます。

資料二ページを御覧ください。

全国がん患者団体連合会は現在、加盟団体が全国の五十一団体、会員総数はおよそ二万人を擁する患者団体の連合組織になります。

資料三ページを御覧ください。

御承知のとおり、二〇二五年三月に高額療養費制度の見直しは一旦凍結となり、その後、厚生労働省には高額療養費制度の在り方に関する専門委員会が設置され、九回にわたって検討が行われました。しかしながら、具体的な見直し金額が提示されたのは、十二月二十五日の第九回専門委員会、最後の委員会でした。

この金額に私たちは驚き、全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会は、十二月二十四日付けで厚生労働大臣と保険局長に対して高額療養費の見直しに関する共同声明を送付、提出いたしました。詳細に関しましては、私の資料、後半にある参考資料の一番に載っております。

資料の四ページを御覧ください。

破滅的医療支出は、世界保健機関、WHOが定義した概念で、自己負担金額が医療費支払能力の四〇%以上になった状態と定義されています。ここで言う医療費の支払能力とは、家計の総消費額から基本的ニーズ、食費、住居費、光熱費をカバーするための基準額を差し引いた額と定義されています。本指標はSDGsの項目でもあり、我が国も参加する国連加盟国が全会一致で採択した目標でもあります。

資料五ページを御覧ください。

WHOの該当サイトを見ますと、各国の取組状況を見ることができます。このように課題を数字で示していくことで、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、合理的根拠に基づいた社会との合意形成を図ることができ、これをエビデンス・ベースド・ポリシー・メーキング、証拠に基づく政策立案と呼んでおります。政策立案、効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計などのデータを活用することは、政策の有効性を高め、かつ国民の行政への信頼確保に資するものとされております。

先ほど安藤先生の方からも御紹介があったように、他国との比較も単純ではできないかもしれませんが、日本が今どこにあるのかということを見ることができるんではないかと思っております。

資料六ページを御覧ください。

日本国憲法の第二十五条では、生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務について記載があります。

改めて読み上げさせていただきます。第二十五条、全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。二、国は、全ての生活部面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。破滅的医療支出が定義する状況は、まさにこの第二十五条に記載された健康で文化的な最低限度の生活であり、国はその生活を守ることが求められています。

また同じく、日本国憲法第十三条には、幸福追求権として、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要すると明記されています。健康保険法改正に当たっても、この法文の意味を必ず入れていただきたいと思っております。

資料七ページを御覧ください。

今回の改定によって国民がどのような生活に陥るかを破滅的医療支出の定義に基づいて推測をしたものが、本日の参考人でもある立教大学経済学部の安藤道人先生の試算で示されております。

簡単に要点を紹介させていただきます。縦軸が医療費の支払能力に対する自己負担の割合、横軸が年収区分となります。

医療費の支払能力に対して、今回の見直し案が年額でどの程度になっているかを見ますと、所得が低い区分においてはいまだに四〇%を超える負担割合となっていますが、多くの年収区分では四〇%未満の低い負担割合に抑えられていることが分かります。

資料八ページを御覧ください。

一方で、今回の見直し案を月額で見ますと、先ほどの年額の状況とは一変し、ほとんどの年収区分で破滅的医療支出の四〇%を超えた状態に陥ってしまうことが分かります。これらの計算は患者が病気になる前と後で所得が変わらないという前提ですが、現実には、罹患による療養生活、働き方の変更などにより所得が減少する場合もあります。

資料九ページを御覧ください。

日本における企業研究では、がんと診断された一年後に所得水準が平均で三四%減少することが分かっています。このグラフは、これを中央値で見たときの数字である二八・六%ほど所得が減少した場合を前提に計算をしたものになります。見ていただければ明らかですが、所得が減少した場合には、年額においても軒並み破滅的医療支出の四〇%に近づくことが分かります。

少し古いデータにはなりますが、私たちの団体でも二〇一〇年に八百五十五人のがんの患者さんを対象にした収入の変化を調査しております。この結果、現役世代のがんの患者さんの約六七%が減収を経験しており、その平均の年収減少率は三六%となっていました。また、個人事業主では七二%の方が事業そのものにも影響があったと回答をされていました。詳細は参考資料の二番を見ていただければと思います。

同様に、私どもは、二〇一七年、二〇一八年にもがん患者さん二百人を対象にした調査を行っておりますが、全く同じとなっております。罹患後の減収というのは私たちにとっては定説になっております。

資料十ページを御覧ください。

このグラフは、所得が減少した場合、月額ではどうなるかを試算したものになります。見ていただければ分かりますように、ほとんどの場合で破滅的医療支出の四〇%を大きく超える状況になっています。

この状況は、憲法第二十五条で保障された生存権、つまり、健康で文化的な最低限度の生活が守られている状態だと言えるのでしょうか。答えは否であると私は思います。国は守るための対策を講じる必要があるのです。

資料十一ページを御覧ください。

このグラフは、今回の改定によって自己負担が増える方がどの程度いるのかということを東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐中特任准教授が試算したものになります。

グラフの赤い色の部分が自己負担が増加する患者さんになります。所得が低い区分オでも約六割の方が、区分アから区分エにおきましては八割を超えるような状況にあります。

資料十二ページを御覧ください。

私たちの団体では、当初、改定案が出された二〇二五年一月に患者の声を集めました。この際、たった数日の間で三千六百二十三人の患者さん、そして医療従事者の方からコメントをいただきました。子供の将来のために治療を諦めなければならない、生活が破綻してしまう、リボ払いで医療費を払っているなど、仕事や育児、親の介護、ローンなどを抱えながら治療を行う現役世代の患者さんから切実な声が上がりました。どうかこの声に耳を傾けてほしいと思います。

資料十三ページを御覧ください。

健康保険法改正案については、衆議院本会議において可決をされました。改正案には附帯決議も併せて可決されており、そのうち高額療養費に関する附帯決議は十から十二の三項目にあります。これに対して意見を述べさせていただきたいと思います。

資料十四ページを御覧ください。

二〇一四年十二月から始まったこれまでの議論を踏まえ、国民が納得した形で合意形成ができるよう、私たちは、根拠に基づいた政策立案、議論ができるよう、健康保険法にその政策づくりの基本哲学を条文若しくは附則にしっかりと明記すべきと考えております。

具体的な追記箇所は、法の第百十五条の第二項になります。本項において、日本国憲法第二十五条にある、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するという生存権の視点から、高額療養費の設計に際しては、通院も含めた療養に伴う家計や生活への影響、養育環境、治療選択への影響などを数字で把握をし、その結果を基に国民が破滅的医療支出の状態に陥らない対策を行う旨を国を講じてこの中に明記をしていただきたいと思います。

特に子育て中の患者さんなどは、お子さんの養育や教育などに相当な負担が掛かっております。同様に、中低所得者の皆さんにおいても、現状において既に破滅的医療支出に陥っていると推測されております。これらについては、後ろにある参考資料の三、四、五、六と同様、前例に倣って特段の配慮をしていただきたいと思います。

社会保障をめぐる議論は、国民の命と生活に関わる重要なテーマです。私たちのことを抜きにして私たちのことを決めないで、ナッシング・アバウト・アス・ウイズアウト・アスという言葉があります。これは、障害者権利条約を象徴する世界的なスローガンであり、当事者が自らに関わる政策決定のプロセスに参加する権利を求めたものでもあります。

政策議論のプロセスにおいては、現場感を持った人の議論が重要です。がん対策基本法第二十五条二にも明記されているような委員会の重要性です。こちらについても併せて条文若しくは附則に明記をしてください。

資料十五ページを御覧ください。

また、現在の運用上の課題となっているものもあります。今国会の中でも、野党、与党を問わず、多くの議員の皆様から指摘された事項になります。

まず、一点目です。高額療養費の申請に対しての合算の問題です。

七十歳以降の方は、数字の大小にかかわらず、医療、介護に有した費用を全て合算することができますが、七十歳未満ではなぜか合算ができません。具体例で見ますと、この十五ページ、この佐藤さんにおいて、一番右側の図にあるB病院の二万円というのは二万一千円に満たないので、七十歳未満の場合は合算ができません。このことは二万一千円の壁とも呼ばれています。

七十歳以上の方が合算できるようになった背景には、過去の健康保険法の改正、高額療養費の上限見直しの際に、特に負担が増加する対象者として軽減措置が図られてきたことがあります。

がん治療も機能分担が進み、例えば画像検査や特定部位の放射線治療、歯科治療などは他院や他科で治療を行うようになっています。また、難病においては、一つ一つの治療は高額ではなくても、疾患が複数かつ生涯にわたって続くことから、負担が大きいのが実情です。

今回の改定では、現役世代、特に扶養家族の方たち、お子さんを育てている方たちが大きな影響を受けることは明らかです。本改正で影響を被る現役世代の負担軽減策を是非講じていただきたいと思います。

資料十六ページを御覧ください。

続いて、年間上限の償還払いに対する対応です。

二〇二六年政府予算案で新設されるこの年間上限額は、当面の間、償還払いかつ患者申告制となる見込みです。患者が一旦支払った後に還付されるという仕組みですので、経済的な課題のみならず、体調の悪い中、患者が煩わしい手続をしなければなりません。通常、還付までには診療月から三から四か月掛かるのが一般的ですが、患者はこの数か月を待てません。システム改修が必要であるならば、いつまでに改修されるのか、数字を示していただきたいと思います。

資料十七ページを御覧ください。

現行の高額療養費制度では、加入する保険者が変わるたびに多数回該当のカウントが初期化される仕組みとなっております。同様な問題は傷病手当金の通算化取得の際にも起きておりました。これもシステム改修により現在は可能になっております。働き方は多様し、転職などは頻繁にあります。このシステムを用いることで多数回の初期化問題は解決されるのではないでしょうか。

最後になりますが、先日、私は昭和百年記念式典に参列をさせていただきました。式典会場では高度経済成長期の動画が流れており、感慨深く拝見をいたしました。日本は、この高度経済成長を実現し、国際的には経済先進国として見られております。その先進国の日本において、現役世代が予期せぬ大病を得た途端、破滅的医療支出に陥るという現状、この状況が果たして先進国と言えるのでしょうか。

大きなリスクに備えるのが社会保障の根幹です。現役世代が治療を諦めることは、社会的にも経済的にも大きな逸失です。失われた命、時間は戻すことができません。国は、将来に禍根を残さないためにも、根拠に基づいた政策議論を行う旨をしっかりと条文に明記してください。

以上になります。ありがとうございました。

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