只野雅人専修大学大学院法務研究科教授

2026年6月10日・第221回国会 参議院 憲法審査会 第5号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 6 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 121 発言)

今御紹介いただきました只野でございます。

本日は、このような機会を与えていただきまして、感謝申し上げたいと思います。

ただいま長谷部参考人から詳しいお話がございまして、私の方から新しくどのぐらいのことが付け加えられるか、いささか心もとないところでございますが、せっかく機会をいただきましたので、精いっぱい努めさせていただければというふうに思います。

本日のテーマ、緊急事態と参議院の緊急集会と、こういうことでございますが、まず前提として幾つかお話をしておこうかなと思うことがございます。おおむねレジュメに沿ってお話を進めてまいります。

まず、憲法化と書きましたが、これ緊急事態について憲法に規定を設けると、こういう趣旨でございますけれども、そうすることで事態をきちんと位置付けられる、それから統制の仕組みをつくることができると、こういうことも言われるわけでございます。それはそのとおりですが、ただ一方で、通常のルールに例外を設ける、言わば立憲主義のルールに穴を空けると、こういう側面があることも否定し難いところでございます。特に、非常に深刻な事態が長期化すると、しかもそこで万全な対応をしなければいけないということまで考えてまいりますと、相当に強い手段、相当に広い例外を認めることにもなりかねない。その辺りのバランスを考えて議論する必要があるだろうと、こう思うわけでございます。

また、各国の憲法を見渡しますと、この種の条項を設けている憲法はもちろんあるわけですが、全てがそういうわけではございません。正面から緊急事態の規定がない憲法、それでは不備があるのかというと、通常はそう考えないわけでございまして、何がしかの手掛かりになる規定があったり、ある種の法理が前提になったりしていて、そういった事態への対応が取られることになるのであろうと、こう考えるわけでございます。

日本国憲法の場合も、正面からこの緊急事態に関する規定があるわけではない。しかしながら、やはりそれは不備と見るべきではなくて、何がしかの対応は可能だと、こういう視点から憲法を捉え直すべきじゃなかろうかと、今日はそんな視点でお話をしてみようと思います。

その手掛かりが言うまでもなくこの五十四条と、こういうことになるわけでございます。特に今、長谷部参考人からお話がありましたこの四十日プラス三十日という枠ですね、これをどう考えるのかということが一つ問われてくるのかなと、こう思っております。

次に、この五十四条ではどう見ていくのかと、こういうことでございますけれども、今回、事前にいろいろ詳しい資料を準備していただきましたけれど、制定過程でございますね、いわゆる三月二日案と言われているものの中で、日本側が戦前の緊急命令とか緊急財政処分に類するようなことを考えた、GHQ側がそれに反対し、立法で対応できるではないかと、こういったやり取りがあり、結果的に、妥協という書き方はよくないかもしれませんが、合意ができて五十四条が作られたと、こういう経緯があるわけでございまして、やはりある種、緊急事態のようなものは想定しながら条文が作られたと、こういう経緯はひとまず押さえておく必要があるのかなというふうに思っております。

その上で五十四条できたわけでございますが、基本的に参議院の緊急集会に国会の機能を代替させると、これ内閣ではなく国会が対応すると、こういうことかなというふうに思いますし、それから、参議院の場合は継続性とか安定性を備えた議院、ハウスとして設計されておりますから、そうしたハウスにふさわしい役割としてこういったものが参議院に任されたんだろうと、通常こんな説明がされるところかなというふうに思っております。

こうしたことを前提に、少し条文についても考えてまいりたいと、こう思っております。

一つ要件になっておりますのが、衆議院が解散されたときということでございまして、こちらも先ほどお話があったところでございますが、これ衆議院が存在しない場合、これを想定しているわけです。解散の場合は規定があるけれども、任期満了の場合はどうなのかと、こういう問題があるわけでございますが、衆議院が存在しないという条件は同じでございますので、緊急の必要があれば類推解釈が許されるのじゃないかと、私もそう考えておりますし、学説でもおおむね合意ができつつあるんじゃないかなと、こういう印象を持っているところでございます。

さて、それから次に、一番問題になりますのが、解散から四十日以内に総選挙を行い、それから、総選挙から三十日以内に臨時会を召集すると、この規定をどう考えるかということでございます。

今回事前にいただいた資料の中にも過去の代表的な学説引かれておりまして、例えばそこを見ますと、最長七十日間と、こういう表現が出てくるわけでございます。しかし、どこまでこれを厳格に考えるのかという問題はあるような気がいたしまして、といいますのは、この七十日という期間内に総選挙を実施し、さらに国会を召集するということが当然に可能であると、こういう前提でお話をされていたんじゃないか。ただいま国会で議論されていますように、それが広い、全国的な範囲で不可能になるような極めて特殊な、例外的な事態が、しかも数年に一度の選挙というタイミングで起きるということまで想定した議論ではなかったんじゃないかと、そんな印象を持っているところでございます。

まさに、非常に想定外の、例外的な事態が、しかも選挙というタイミングで起きるということは普通なかなか考えませんので、そのことが仮に可能性とあるとしたら、この五十四条を改めてどう見るのかということをもう少し考えてみる必要が出てくるのではないか。従来と申しますか、この憲法改正の議論が出てくるまでは余り十分に主題化されていなかった問題ですね。まあ、これはこれとして新しい問題として見ることはできるだろうというふうに思うわけでございます。

そこに、次に、国に緊急の必要があるときという言葉でございますけれど、臨時会の召集の場合も似たような問題はあるのですが、当然、臨時会の召集などよりもこれは厳しく解さなきゃいけないと、ここも合意があるところかなと思っております。

じゃ、具体的にどういう場合が想定されるかといいますと、大きく二つぐらいに分けてみましたが、一つが治安上の緊急事態が生じた場合、これはいろんなものがあるかと思います。それから、もう一つよく言われますのは、災害等の問題ですね。これ、憲法の制定過程でも日本側はこういうことを言っているわけでございます。こういうものが一つあり、しかしそこには限られないということで、もう一つ付け加えられますのが、憲法や法律を施行する上で特別会の召集を待てないような、こういう場合というのが挙がってまいります。こちら、本来は会期中に処理すべき案件が処理し切れなかった、しかし七十日待てないと、こういう場合のものでして、これは当然七十日以内に処理しなければいけない、こういう案件でございます。二件の先例ございますが、これはいずれもこういうものだったというふうに思っております。

もう一つの方ですね、多分、普通、緊急の場合といいますと、治安上の緊急事態とか災害等、特に最近は災害等を念頭に置かれること多いと思いますが、こういったものが普通考えられるし、そう考えるのはすごく解釈として合理的かなというふうに思っておりますけど、よくよく考えてみますと、こういう事態というのは長期化することがあるわけでございます。大体七十日以内におおむね終息するような気はいたしますが、事態の性格考えますと、長引くことというのは当然あるわけですね。

ただ、通常は、そうはいっても、一部の地域で選挙ができないというようなことはあるかもしれませんけれども、長期にわたって全国的に選挙の実施ができないということはなかなか想定し難いわけです。ですから、長引くとしても、まずは必要なら緊急集会を開いて、その後七十日後までに衆議院をつくり直して、国会として対応に当たっていくと、こういうことで十分であろうと。その先まで考えないというのはやむを得ないことだと思いますし、また、考えようとすると例外的な対応を長引かせることになりますから、現在のような規定ぶりに五十四条がなっているということには十分な理由があるように思っております。

ただ、今申しましたように、緊急の場合として通常想定される事態というのは当然長引くことがあるわけであります。繰り返しになりますが、それが選挙のタイミングで起きて、しかも全国的に選挙が実施できないということはほとんど、なかなか普通は考えにくいのですが、仮にそういう可能性があるとしますと、やはりそういう可能性踏まえて、この緊急集会というものを活用する、緊急集会で対応するということも解釈としては許容され得るのではないか。

緊急の場合というのはなかなか広い可能性を実は含んでいる。通常はそれは七十日という中で処理されるものでございますけれども、それを超える可能性、事態がそれを超えて広がる可能性もあるということを考えますと、はっきり規定はいたしませんけれども、そういった対応、緊急事態、緊急集会による対応というのが許容される余地は解釈としてあるんじゃなかろうかと、こう考えている次第でございます。

ただ、もちろん、このように考えますと、いろいろ御批判や御懸念もあるところかと思いますので、その辺りも想定して少し幾つかの事柄を付け加えさせていただきたいと思います。

一つは、緊急集会に限らないことでございますけれど、通常とは違う例外的な扱いをすると、こういうことでございますから、やはり例外を例外にとどめるための対応というのは国会としてしっかりやっていただく必要があろうかと、こう思っているわけでございます。

現に、いろいろな事態が起きますと、それを踏まえて法改正ということが行われております。今回の資料にもございますように、緊急事態に関する条項というのは結構たくさんあるわけでございます。これはそれぞれ過去の事例を踏まえて作られたところでございますし、さらに今後、新しい災害等あれば、改めてそれをしっかり検証して、国会としてきちんと法律を整備いただくという作業は継続して必要かなと、こういうふうに思っております。そうすることで、この例外的な事態への負荷を大きく減らすことができるだろうと、こう考えるわけでございます。

いま一つは、こちらも先ほどお話があったところでございますけれど、やはり、選挙の実施が難しいような場合であっても可及的速やかに選挙を実施していく。それから、できれば最低限、まずは定足数の充足が見込めるような状態をつくっていくと、そうすることで衆参そろって対応ができるわけでございまして、ここも非常に重要なところかなというふうに思っております。

選挙はやはり十全な形でやるのが望ましいと、これも一つのお考え方と、考え方かなというふうに思うわけでございますが、しかし、十全な形で選挙をしようとしますと、勢いやはり慎重にならざるを得ない、なかなか選挙の実施に踏み切れない、こういうことになるのではないかということも懸念するわけでございます。

また、緊急集会を長い間使うということになると歯止めがあるのかと、こういう御懸念もあろうかと思います。これもなかなか難しいのですけれども、緊急集会というのはやはり内閣主導で進んでいくところがあり、国会の機能としては通常とは違う形が取られますので、やはり通常に復していこうと、こういう形の力学は働きやすいんだろうと思います。加えて、今想定されている事態では衆議院が欠けていると、こういうことでございますから、これはやはりできるだけ早く選挙を実施しようと、こういう方向で動いていくことは当然期待できるのかなというふうに思っております。

緊急集会の性格考えますと、それなりの歯止めになる余地はあるんじゃないかと、こう思うわけでございます。ですから、現行憲法でも対応は可能じゃないかと、こう考えるわけでございますが、それはそれとして、しかし規定があった方がよいだろうと、こういう御意見もあるいはあるかもしれません。

ただ、繰り返しになりますが、その規定を設けるというのはなかなか、制度設計が非常に難しいところでございます。例えば、選挙困難事態ということについても、私、まず定足数が最低限充足されればよいのじゃないかと、こういうことを申しましたが、想定されている事態は実はそれより広いように見受けられます。どこまで詳しく憲法に規定するのかと、これは非常に難しい問題でございますけれども、できるだけ幅広い事態、蓋然性が低くても幅広くいろんな事態を想定して、しかもそこに十全な対応をしていこうということになりますと、どうしても例外の幅は大きくなってしまうと、こういうことがあるわけでございます。

日本国憲法の場合は緊急事態正面から規定していない、こういう憲法でございますから、憲法の規定の趣旨ですとか、その背景にあるものを踏まえながら対応するということは十分あり得ることかなと、こう考えている次第でございます。

以上となります。どうも機会を与えていただきましてありがとうございました。

前後のやりとり

2の発言を見る

10の発言を見る