長谷部恭男早稲田大学法学学術院教授

2026年6月10日・第221回国会 参議院 憲法審査会 第5号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 4 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 121 発言)

本日は、このような発言の機会与えていただきまして、どうもありがとうございます。

それでは、お手元に配付資料というものをお配りしてあるかと思います。これを基に話を進めてまいります。

そこに掲げられておりますのは、衆議院法制局、そして衆議院憲法審査会事務局の方で作成になりました、まずは緊急事態条項のイメージ案というものでして、御存じのとおり、一、国会機能の維持に係る緊急事態条項、二、選挙困難事態における国会機能の維持、そして三がオンライン国会、四が国会機能の維持が困難となった場合における国家機能の維持に係る緊急事態条項と、そういった四つのイメージ案から成り立っております。

本日は、時間の関係もございますので、三を除く残りの三点についてお話ができればと存じます。

このイメージ案のうちの一と二に関しましては、これは従来からしばしば議論されてきました論点、すなわち、衆議院が解散されたときに大規模な災害や外国の武力侵攻が発生をしまして総選挙がすぐには行えない場合も考えられる、そういった場合は、解散された衆議院を復活させて、衆参両院がそろった国会としての活動が可能となるようにすべきだ、そういう主張と関わっているように思われます。

最初に、この主張自体に関する結論を申し上げますと、こうした改正は私は必要ではないと考えております。衆議院が解散された後に大規模な災害等が起こったとき、現行の憲法の条文にもそれに対処するための制度が規定をされておりまして、それは参議院の緊急集会制度であります。つまり、参議院の一院だけで国会の機能を暫定的に代替することができるということになっておりますし、この緊急集会では法律の制定も予算の議決も可能であります。

それから、そもそも、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と定める現憲法四十三条一項の規定からいたしますと、失職した議員、まあ衆議院議員の方々のことですが、選挙を経ないでまた衆議院議員とするというのは、これはやはり異常な制度設計と言わざるを得ないのではないか。

ただ、わざわざ解散された衆議院を復活させる制度をつくらなければならないとおっしゃる方々の理屈は次のようなものでした。

つまり、憲法五十四条の一項は、衆議院が解散されたときは、それから四十日以内に衆議院議員の総選挙を行い、それから、選挙の日から三十日以内に国会を召集しなければならないと定めておりますので、この条文を素直に読めば、参議院の緊急集会で国会の機能を代行できるのは四十日プラス三十日の七十日が上限のはずではないか、それ以上の時間が掛かるようでは緊急集会では対応できないのではないかと、そういうお話だったわけですが、この議論には私はいろいろ問題があると考えております。

まず第一に、なぜこの五十四条一項が四十日、三十日という日限を設けているのかという、そういう問題でして、それは、内閣が衆議院を解散したまま総選挙をいつまでも行わないとか、総選挙を実施したが、その結果が自分たちにとって思わしくないという理由で新たな国会をいつまでたっても召集しない、そういった事態を避けるため、つまり、従来の政府が居座り続けることのないようにこうした日限が設けられております。

しかし、それなのに、その従前の衆議院議員の方々の任期を復活し、更に延長して政権の居座りを認めるということは、これは実は本末転倒の提案にはなっていないだろうかという疑いを抱かざるを得ないところがございます。

それから、第二ですが、参議院の緊急集会が国会の機能を代行できるのが七十日以内に限られるべき、カンマ限られると考えるべきかという問題があります。

というのも、七十日を過ぎると途端に参議院の審議能力、議決能力が低下する、極端に低下をすると考えるべき理由はないように思われます。四十日、三十日という日限は、先ほども申しましたとおり、政府の居座りを許さないための数字でありまして、緊急集会の機能の時間的な限定を狙いとしている、そういった日限ではございません。

それから、第三、五十四条一項の定めにもかかわらず、例えば四十日以内に総選挙を実施できないという事態が生じた、例えば、その結果、五十日後に総選挙を実施することになったとしても、それが果たして憲法違反で無効の総選挙となるかという、そういう問題があります。まあ、そうはならないのではないかと思われます。

これが違憲無効の選挙だというふうに例えば裁判所が判断をするということがありますと、いつまでたっても有効な選挙を実施できる見込みはございません。そうなれば、いつまでたっても衆議院は新たに成立することはございませんし、そうなりますと、国会はその後はおよそ存在し得なくなってしまいますので、日本の裁判官はそれほど非常識ではないと私は考えております。

以上の諸点からいたしますと、仮に四十日以内に総選挙を実施できない、そういった状況が生じたとしても、選挙の実施が可能な選挙区から順次実施をする、可及的速やかに全ての選挙区での選挙を実施されるよう努めるべきでありますし、そのための制度整備を進めていくべきではないかとも思われます。

なお、先ほども申しましたとおり、両議院の議員は全国民の代表でございますから、選挙が実施されない選挙区がたとえ僅かに残ったとしても、定足数に達していさえすれば、衆議院が活動すること、つまり国会が活動を開始することは可能のはずであります。

それから、第四の問題ですが、衆議院が解散された場合でなく、衆議院が任期満了となった場合に緊急の必要が生じた場合にはどのように対処するべきかという問題、ないわけではございませんが、この場合は、学説の大勢は、こうした場合でも参議院の緊急集会で対応することは可能だとしております。常識的に考えればそうなるように思われます。

上述のイメージ案の一でございますが、国会機能の維持に係る緊急事態条項というのは、以上のような、現在の条文を常識的に解釈すれば当然帰結するはずの結論、それを条文の形で示す、明確化をするという、そういったイメージ案になっておりまして、その意味では、こうした改正を行ったとしてもさほど懸念する必要はなさそうです。マイナスにはならないと言えるとは思いますが、逆に申しますと、何かプラスはあるのか、常識的な解釈から出てくるはずの結論をわざわざ憲法を改正して明確化するまでの必要はあるかどうかという、そういう疑問はあり得るところだろうと思います。

それから、イメージ案の第二点ですが、選挙困難事態における国会機能の維持に係る緊急事態条項でございますが、これは、緊急事態の発生によって衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が広範囲において相当程度長期間にわたり困難であることが明らかな場合、そういった場合については、国会の事前の承認を条件として、総選挙又は通常選挙の実施、選挙困難事態の終了に至るまで延期をすると、これを可能とする改正案のイメージとなっております。

これは、解散後に総選挙の実施が困難となった場合に解散された衆議院を復活させるべきだという従前からある議論を、解散前にも、また参議院の通常選挙の実施が困難となった場合にも拡張して実現しようとする御提案のように見られます。

この提案については、以下のような問題があるように思われます。

第一に、解散後に総選挙の実施が困難となった場合、これは、イメージ案の第一について論じましたとおり、総選挙の実施を暫時延期しつつ可及的に速やかに総選挙の実施に努めることで問題は解決可能のはずでございます。

第二に、解散前に選挙困難事態が予想されるのであれば解散をしなければよいと、ただそれだけではないかと思われます。

それから第三に、三年ごとに行われる参議院の通常選挙の実施が困難となる場合ですが、参議院の場合は半数改選ですから、半数の議員の先生方はそのまま在任しておられます。定足数は三分の一ですから、直ちに参議院が機能停止に追い込まれることはないはずでして、これも可能な限り速やかに通常選挙を実施するよう努めればそれで十分なはずでございます。

それから、この御提案には、任期が延長された国会議員は一体いつまで議員でいることになるのかという懸念がございます。上限を設けるべきだという見解もおありでしょうが、国会の議決によって延長が可能だという制度といたしますと、止めどなく任期が延長すると、そういうリスクもないわけではございません。

それから、イメージ案の第四点になりますが、こうした憲法改正提案に関連をいたしまして、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときには、内閣が法律と同一の効力を有する緊急政令を制定をすると、あるいは、国会による予算の議決を待ついとまがないと認める特別の事情があるときには、内閣は財政上必要な処分を行うことができるとする制度がここでは提案をされております。

私はこれは極めて不穏当な御提案ではないかというふうに考えておりまして、第一に、参議院の緊急集会によるにしろ、新たな国会を可及的速やかに召集するにしろ、国会による法律の制定や予算の議決を待ついとまがない場合、果たして想定できるのかという、そういう問題がまずあるかと思います。

第二に、法律の制定を待ついとまがないと認めるのは誰かと。それは国会自身であるはずはございませんので、恐らく内閣がそう認めるということになりましょうが、内閣のみの判断で国会での審議と議決を省略し、政令で法律を次々と変更できるということになりますと、日本という国の在り方自体が根本からゆがめられるリスクがあると思われます。

こうした事態は旧憲法にあった緊急命令に倣ったものと思われますが、伊藤博文名義で刊行された旧憲法の注釈書「憲法義解」も、この緊急命令を定めた憲法八条の注釈でこの制度の危険性に十分注意を促しているところでございます。

他方、国会による予算の議決を待ついとまがないという状況については、既に現憲法の八十七条が、予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができるという予備費の制度を設けておりますので、これで対応することは可能だと思われますし、一予備費でも対応し得ない事態が生じたときは、これは緊急集会又は国会で補正予算あるいは暫定予算の議決を求めるべきであろうかと考えております。

以上で私の意見の陳述を終わります。どうもありがとうございました。

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