野口晴子早稲田大学政治経済学術院教授

2026年5月20日・第221回国会 衆議院 厚生労働委員会 第10号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 6 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 100 発言)

ただいま御紹介にあずかりました早稲田大学の野口と申します。現在、社会保障審議会介護保険部会の部会長を務めております。

本日は、このような意見陳述の機会を頂戴し、誠にありがとうございました。少々個人的なことですが、国会に入るのは地方から中学校のときに修学旅行で来て以来なので、非常に緊張しております。よろしくお願いします。

私からは、今般の法案のうち、ちょっと資料を提出させていただきましたので、それを御覧になりながら、主として介護保険法及び老人福祉法関連の改正について意見を述べさせていただきます。

まず、私の基本的な認識を申し上げますと、本法案は、介護保険制度を取り巻く現状と課題を踏まえながら、昨年度取りまとめられました「二〇四〇年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会、ちょっと長いので、以下、二〇四〇検討会と訳させていただきますが、この二〇四〇検討会や社会保障審議会介護保険部会等において議論された方向性を具現化、具体化するものとして重要な意義を有しており、評価できるものと考えております。

スライドを一枚おめくりください。本日は、このスライドにありますような概要でお話をさせていただきます。

三枚目を御覧ください。

まず初めに、二〇四〇年に向けた制度的課題と改革の視点について、大枠を御説明申し上げたいと思います。

私は昨年度まで、先ほど触れた二〇四〇検討会の座長として、また社会保障審議会介護保険部会の部会長代理として、介護保険制度の見直しに関する議論に関わってまいりました。介護保険制度は、創設から約四半世紀が経過したわけですけれども、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして定着、発展を遂げてまいりました。

一方で、このスライドにございますように、二〇四〇年に向けては、八十五歳以上の人口の増加、生産年齢人口の減少、介護人材不足など、深刻な構造的な変化に直面をしておるわけです。更に重要なのは、高齢化や人口減少のスピードには地域差があり、先ほど先生方のお話にもありましたが、地域差があり、介護サービス需要の変化も地域ごとに異なるという点です。

こうした背景の下、昨年一月に二〇四〇検討会が設置されました。この検討会の特徴は、従来のような縦割りによって制度改正の議論を行うのではなくて、介護、障害福祉、保育等を横断的に捉えて、さらに、医療、住まい、移動手段となる交通といった関連分野との連携も視野に入れながら検討を行った点にあります。

また、二〇四〇年という時間軸と、地域ごとの人口動態あるいはサービス需要の違いという地域軸の両面から検討を行ったことも、本検討会の重要な特徴として指摘することができると思います。

今後の社会保障制度においては、限られた人的あるいは財政的資源の中で、真に支援を必要とする方々に対して、必要なサービスや支援を着実に届けていくという視点がこれまで以上に重要になると考えています。そのためには、地域ごとの実情やニーズの違いを踏まえながら、制度やサービス提供体制を不断に見直していく必要があると思います。

一枚、スライドをおめくりください。

こうした背景を踏まえ、三つの視点から、今回の制度改正の方向性について申し上げたいと思います。

社会保障審議会介護保険部会では、第一に、二〇四〇年に向けて、人口減少やサービス需要の変化に対応したサービス提供体制の構築について議論を行ってまいりました。特に、中山間、人口減少地域においては、高齢者人口やサービス需要が減少する中にあっても、地域住民に必要な介護サービスを維持、確保していく必要があります。このために、地域の実情に応じて、配置基準の柔軟化、あるいは包括的な評価の仕組みを導入可能とするような新たなフレームワーク、さらには、市町村が関与しながら介護サービスの維持、提供をする仕組みなどが提案されています。

二番目には、有料老人ホームについて、中重度の要介護者などの重要な受皿と有料老人ホームがなる中で、いわゆる囲い込みやサービスの透明化、あるいは質の確保に対する課題が多々指摘されているところです。このため、一定の有料老人ホームについて登録制を導入するとともに、ケアマネジメントの独立性確保、あるいは相談支援機能の強化等を図る方向性が示されています。

第三に、介護保険制度の持続可能性を確保しながら、多様なニーズに対応した介護基盤を整備していくことも重要な課題となっております。

それでは、こうした制度改正の方向性の背景について、幾つか代表的なデータを用いながら御説明をしたいと思います。

次のスライドを御覧ください。

まず、地域ごとのサービス需要の違いについてです。このスライドの最も重要なメッセージは、二〇四〇年問題は全国一律ではないという点です。

スライドの右側の棒グラフをちょっと御覧いただきたいんですが、全国で見ると、在宅サービス利用者数は、二〇二四年の約三百七十九万人から、二〇四〇年には約四百六十五万人まで増加することが予想されています。一方で、その後は減少に転じる見込みとなっています。しかし、その内訳を見ると、地域ごとの差が非常に大きいことが分かります。

その棒グラフのちょっと下の表を御覧ください。例えば、町村部では、既に二〇二四年以前に在宅サービス需要のピークを迎えている保険者が二百四十六、割合にすると約三〇%存在しています。一方で、三大都市圏では、二〇三五年にピークを迎える保険者が百二十三、約四〇%。三大都市圏以外では、二〇四〇年にピークを迎える市区町村が三百七十四、約三〇%と最も多くなっています。つまり、地域によって必要となるサービス提供体制が大きく異なるということです。

また、中山間、人口減少地域においては、サービス需要が減少する中でも、地域住民のために必要な介護サービスを維持、確保していく視点も重要です。加えて、地域によって、介護人材、医療資源など、供給側の状況にも大きな差があります。そのため、需要面だけではなくて、地域に存在する介護資源あるいは医療資源の状況も踏まえながら、地域ごとのサービス提供体制を考えていく必要があります。

今回の制度改正における特例的な仕組みは、そのための選択肢、政策的なチョイスセットの一つであると位置づけられるものと考えております。

スライドを一枚おめくりください。

次に、有料老人ホームについてです。

有料老人ホームは、現在、高齢者の住まいと介護を支える重要な基盤となっています。このスライドにありますように、住宅型有料老人ホームと、有料老人ホームに該当するサービスつき高齢者向け住宅、いわゆるサ高住ですね、それを合わせると全国で約二万件規模となっております。また、そのうち約三割に当たる約六千件では、中重度の要介護者や難病患者等を中心に受け入れております。さらに、要介護者、要支援者等を幅広く受け入れている施設も約三割に上っています。つまり、住宅型有料老人ホームについても、実態としては、中重度の介護ニーズを抱える方々の重要な介護基盤となっているということです。

一方で、一部の住宅型有料老人ホームでは、併設、隣接する介護サービス事業所へのいわゆる利用誘導によって、入居者の主体的なサービス選択が制約される、介護保険法で保障されている利用者あるいは御家族の選択がいわゆる制限されるということが課題となっております。また、虐待事案の増加、あるいは現行の届出制の下での指導監督の限界も課題になっております。

このため、一定の有料老人ホームについて登録制を導入する、登録制という事前規制を導入して、入居者の保護、あるいはサービスの透明性、質の確保を図るということは妥当な方向性であると考えます。さらに、相談支援類型を創設し、ケアマネジメントの独立性を担保することによって、入居者本人や御家族の意思に基づく適切なサービス選択を確保していくことが重要です。

一方で、有料老人ホームは、民間の創意工夫によって、多様なサービスを展開してきたという側面もあるでしょう。そのため、過度な規制によって民間事業者の参入を妨げることのないよう、透明性が高く、公正なルールによって、適切な制度運用を行っていくことが重要であると考えます。

なお、有料老人ホームの紹介事業者については、現状、高齢者と希望する住まいを結びつける重要な役割を果たしています。しかしながら、利用者からサービスの内容や質が見えにくいという介護サービス市場における情報の非対称性が原因となって、一部の事業者による、要介護度などに応じた不適切な高額手数料の事例などが指摘されております。こうした指摘を踏まえて、高齢者やその家族、地域の専門職等が、適切に事業を運営している紹介業者を確実に確認、選択できる仕組みの構築が必要と思われます。

最後のスライドとなります。次をおめくりください。

最後に、これまで申し上げてまいりました二〇四〇年に向けた介護政策の方向性について、まとめさせていただきます。

第一に、地域差を踏まえたサービスの提供体制の重要性です。今後は、全国一律ではなく、地域ごとの人口構造やサービス需要の変化を踏まえた対応が、これまで以上に必要となります。

第二に、必要な介護サービスの維持、確保についてです。特に、中山間地域を含め、地域住民に必要なサービス基盤をどのように維持、確保していくかが重要な課題となります。

三番目に、データに基づく地域マネジメントの重要性です。医療、介護、住まい、移動手段等を一体的に把握して、地域ごとの需要変化を踏まえながら、関係者のステークホルダー間で議論していくことが重要だと考えられます。

国の支援の下、保険者である市町村に対して都道府県が適切に関与しながら、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムの更なる深化が問われている時代に差しかかっていると思います。

以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

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