結城恵群馬大学特別教授・名誉教授

2026年4月21日・第221回国会 衆議院 法務委員会 第6号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 2 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 71 発言)

皆様、おはようございます。

この度は、こちらにお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

私は、御紹介にあずかりました群馬大学の結城恵と申します。

このような機会をいただきまして、ちょっと資料を御用意いたしましたが、資料に若干修正がございますので、先に申し上げます。

資料一ページ、対象法案のところ、内閣提出と書いてある括弧づけのところ、申し訳ありません、削除をお願いいたします。それから、二ページ目、2の(1)、提示された手数料でございますが、その後に、の上限額が入ります。申し訳ございません。よろしくお願いいたします。

それでは、陳述を始めさせていただきます。

私は、これまで、人口減少が進み、外国人が流入する地方の一つである群馬県を拠点に、外国人材の受入れと定着、多文化共生の実践に関わってまいりました。具体的には、教育、医療、防災、福祉、それから就職支援などの領域において、産学官金連携で、外国人住民と日本人住民とともに小さな実践を地道に三十年間積み上げてまいりました。

また、出入国在留管理庁の政策懇談会、内閣府の秩序ある外国人の受入れと共生社会の実現の有識者懇談会にも参加させていただきました。

本日は、その知見をもってお話をさせていただきたいと思います。

これらの現場で繰り返し突きつけられてきた問いがございます。それは、誰を受け入れるのかではなく、どのような社会をつくるのかという問いです。本日は、この問いを念頭に置きながら、いただいた法案について意見を申し上げます。

まず、JESTAの創設に関する法案について申し上げます。

近年、日本は、人口減少と人手不足の進行により、外国人材の依存度が高まっております。一方で、短期滞在から不法残留や不適切な就労といった課題も指摘されており、人の流れをいかに適正に管理するかは重要な政策課題になっています。

また、訪日外国人の増加に伴い、空港における審査の負荷や待ち時間の長時間化といった課題も顕在化しています。

私は、出入国在留管理庁の政策懇談会の一環で羽田空港の現場を視察した経験がございます。そこでは、様々な航空路線が集中する時間帯に、三千人規模の入国審査待機列が生じていました。その中で、職員の方々が大きな声を張り上げ、懸命に人の流れを誘導されている姿を目の当たりにいたしました。また、乗り継ぎ便の時間を気にして、不安そうにされていらっしゃる外国人の方々の姿もありました。どこへ進めばいいのか分からず、足を止めている様子も見受けられました。

この光景から私が強く感じたのは、現在の出入国管理では、既に現場の努力だけで支え続けるには無理がある、そういう段階に来ているということです。これは単に入国審査の現場の問題ではなく、制度としての環境整備が求められている問題であります。

ここで、国際的な状況を確認いたします。国際的に見ると、資料にもございますように、英国や米国、欧州でも、入国前審査と費用負担を組み合わせた制度が導入されております。入国管理の重心を到着時から渡航前へ移すことは一定の潮流となっています。配付資料に示しますように、それぞれ一定の費用負担を前提とした設計となっております。

したがいまして、入国前審査と費用負担を組み合わせることは、国際的に見て標準的な制度設計であり、日本だけが特別な対応を取ろうとしているわけではございません。

更に重要なのは、その費用が何に使われているのかという点です。

各国の制度を見ますと、この費用は単なる申請書類の処理に充てられているものではございません。米国のESTAにおいては、事前のテロや犯罪リスクの判定の仕組みや、航空会社とのデータ連携、入国審査システムの統合に使われています。つまり、空港でその場になって判断をするのではなく、渡航前の段階で一定のふるい分けを行う、そういった仕組みへの投資であるということです。

英国のETAも同様でございます。英国では、デジタル渡航認証システムそのものに整備を加える、それとして、生体情報、特に顔認証との連携、そして自動化ゲートの高度化が進められています。ここでは、顔認証の処理能力の向上や、入国前の情報と入国時の確認の一致を取るための仕組みが重要なお金の使途となっています。

欧州では、ETIASにより、データベースを横断照合する仕組みが構築されています。これはデータ統合インフラへの投資です。

このように見ますと、各国に共通しているのは、費用が、人の配置ではなく、システムとデータ基盤の整備に投じられているという点でございます。その結果として、空港における待ち時間の短縮、審査の迅速化、リスクの早期把握が可能になっています。

したがって、日本におけるJESTAについても、私は、観光客を主対象とする入国前審査に必要な環境整備の投資として位置づけることが適切であると考えます。具体的には、事前審査の整備、顔認証ゲートの処理能力の向上、入国前審査と入国時の確認の一体化、データ連携基盤の構築といった分野の投資が考えられます。

また、JESTAに係る手数料収入については、制度運用に必要な範囲において、こうした審査体制やシステム基盤の整備にも用いられ得るものとして承知しております。

この点を踏まえますと、本制度は単なる申請手続の導入ではなく、審査の迅速化と精度向上を支える基盤の整備として、一体として理解する必要があると思います。

次に、在留資格の手数料について申し上げます。

今回提示されているのは、在留資格の変更許可の手数料の上限額が十万円、在留期間の更新許可の手数料の上限額が十万円、在留許可の手数料の上限額が三十万円という案でございます。率直に申し上げて、これらの金額は大きいと感じられるものであり、反発や不安の声が上がることは当然だと考えます。

しかし同時に、ここで重要なのは、この問題を単なる値上げの是非としてだけ論じるべきではないということです。私は、この問題の本質は、費用対効果の問題にあると考えております。どの程度の負担なのか、その負担は何に使われるのか、そして、その結果として何が改善されるのかという三点が明確でなければ、制度への納得は得られません。

ここで、今回の三つの手続をもう一段具体的に見ていきたいと思います。

これらは一見すると同じ手数料の引上げに見えますが、実際には、制度上全く異なる意味を持つ手続でございます。

まず、在留資格の変更許可について申し上げます。

これは、外国人が日本社会における役割を変える局面に当たります。例えば、留学生として来日して就労者へと移行する場合、あるいは技能実習から特定技能へと移る場合などが典型です。こうした移行は、単なる資格変更ではありません。学ぶ立場から働く立場へ、訓練の段階から戦力として期待される段階へと、社会の関わり方そのものが大きく変わる転換点です。

したがって、この手続において本来求められるのは、単なる書類審査ではなく、その人が次の段階で社会に適切に適応できるかどうかの確認であるべきです。日本語能力、職場での適応力、生活ルールへの理解、制度へのアクセス可能性、こうした要素が整えられているかどうか、支えられているかどうかが重要になります。

その観点からすれば、この十万円の範囲内で定められる手数料は、変更許可の処理費用に加えて、日本語能力の向上や社会理解を支える制度と一体として設計されて初めて、その妥当性が語れるというふうに考えます。

次に、在留期間の更新認可について申し上げます。

これは、既に日本で生活している外国人が継続して滞在することが適切かどうかを判断する手続です。ここで問われるのは、これまでの在留が適切であったかどうかという点です。法令を遵守しているか、税や社会保険を適切に履行しているか、就労が安定しているか、生活が破綻していないかという点が含まれます。

この手続は、単に滞在を延長するかどうかという問題ではありません。既に地域社会の中で暮らしている人の在留の質を確認し、それぞれを維持させるための制度です。

したがって、この十万円の範囲内で定められる手数料は、在留の質を維持し、秩序ある社会を支えるための制度と結びついている必要があります。例えば、行政間の情報連携によって審査を精緻化すること、迅速な審査体制を整えることで公平で予見可能な判断基準を示すこと、こうした改善が実現されて初めて、負担に対する納得が生まれると考えます。

そして、最も重要なのが永住認可でございます。

永住認可は、日本社会の構成員として長期的に位置づけるかどうかを判断するものであり、社会統合の最終段階です。

したがって、この三十万円の範囲内で定められる手数料は、単なる許可料として扱うべきではなく、長期的な社会統合への投資として位置づけられる必要があります。

ここで重要なのは、日本語能力、地域との関係、安定した就労、社会参加といった要素を制度としてどのように支えるかという点です。単に基準を課すだけでなく、その基準に到達するための道筋を用意すること、つまり、努力が報われる制度であることが重要です。永住許可は日本社会への定着を判断する場面である以上、その前の段階からの支援の積み重ねと切り離しては考えられません。

以上のように、在留資格の変更は移行、更新は継続、永住は定着という、それぞれ異なる段階に対応しています。しかし、これらに共通しているのは、外国人が日本社会にどのように関わり、どのように位置づけられていくのかという問題であるという点です。

したがって、今回の手数料の議論においては、手続ごとの意味に応じた制度設計が求められます。単に金額の多寡を論じるのではなく、何のための手続であり、その手続に対応してどのような支援や環境整備がなされるのかを明確にする必要があります。

私は、この点を考える上で、負担からサービスへ、そして成果へという流れを可視化することが不可欠であると考えます。更に言えば、受益と負担の関係が当事者にとって実感できる、理解できる制度設計でなければなりません。負担だけが先に見え、そこから先のサービスや成果が見えない制度は、信頼を損ねます。逆に、自分が負担したものがどのような形で審査の迅速化、日本語教育、相談支援、地域参加支援などに結びついているのかが見えるならば、制度の納得は大きくなると考えています。

この点については、秩序ある外国人との共生社会実現のための有識者懇談会においても、社会統合の体系化、日本語教育、オリエンテーション、継続支援の必要性が示されています。私自身も、定住、統合、定着という一貫した支援モデルの必要性を提案してまいりました。こうした施策を、単なる善意や個別事業としてではなく、制度として位置づけることが必要であると考えます。

最後に、もう一点申し上げます。それは、人道的配慮の問題です。

制度は、必ず例外的なケースに直面します。経済的に極めて困難な状況にある方、家庭事情や健康上の問題を抱える方、その他、一般的な枠組みの中にそのまま当てはめることが適切ではない方々が現実には存在します。

その際に問われるのは、例外を認めるかどうかではなく、例外をどのように制度として位置づけるかであると考えます。制度の趣旨と整合的な形で例外を設計し、恣意的ではなく、透明で説明可能な形で運用することが求められます。これは制度を弱めることではありません。むしろ、制度が現実の多様な状況に耐え得るものであることを示し、制度への信頼性を高めるものであります。

また、今回の手数料の在り方については、法務実務や外国人支援の現場など様々な立場から、特に脆弱な立場にある方々への影響を懸念する意見も示されております。こうした多様な視点からは、制度をより実効性のあるものに高めていくための重要な示唆であると受け止める必要があります。

したがって、今回の制度設計においては、負担とサービスの関係を明確にすることに加え、必要な配慮を制度として組み込むことが不可欠です。そのことによって初めて、受益と負担の関係が実感として理解できる制度が実現し、秩序と共生を両立する持続可能な社会につながるものと考えております。

制度とは、単なる管理のための仕組みではなく、社会を成立させるための基盤です。今回の議論は、手数料の問題にとどまらず、どのような社会を設計するのかという問いに直結しています。秩序と共生は対立するものではなく、制度設計によって統合されるべきものです。

御清聴ありがとうございました。(拍手)

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