松原由美早稲田大学人間科学学術院教授

2026年5月20日・第221回国会 衆議院 厚生労働委員会 第10号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 2 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 100 発言)

早稲田大学人間科学学術院教授の松原由美です。

この度は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。

私は、医療、介護、福祉分野の経営分析、政策を主な研究テーマとしております。介護保険につきましては野口先生がお話しすると伺っておりますので、私は、社会福祉法等改正案について、特に、身寄りのない高齢者支援、福祉人材確保、地域共生社会の観点から意見を申し上げます。

初めに、今回の改正の意義について述べます。

今回の改正は、人口減少、単身世帯の増加、地域コミュニティーの弱体化など、日本社会の構造変化に対応しようとする貴重な改正であると考えております。

特に重要なのは、従来の家族が支える福祉から、地域と社会全体で支える福祉への転換を制度として明確化した点です。

これまで、日本の福祉制度は、家族がいる、人材確保ができることを前提に構築されてきました。しかし、現在は、単身高齢者の増加、未婚率の上昇、親族関係の希薄化、地域の担い手不足が急速に進んでおります。つまり、制度を支えてきた社会的前提そのものが変化しています。今回の改正は、その現実を制度として認識した点に大きな意義があると考えています。

次に、身寄りのない高齢者支援について述べます。

今回の改正で特に重要なのは、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援を制度化した点です。

現在、医療、介護現場では、入院保証人がいない、施設契約ができない、緊急連絡先がない、死後事務を担う人がいないといった課題が急増しています。これまでは、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、行政や社会福祉協議会の職員などが実質的に対応してきました。しかし、それらの多くは制度化されておらず、現場職員の善意や責任感に依存する、いわばシャドーワークとして担われてきた側面があります。

今回の改正は、制度外に押しつけられてきたケアを社会的課題として可視化した点に意義があります。これは、単なる制度追加ではなく、家族機能を誰が支えるのかという日本社会の根本的課題への対応でもあると考えます。

一方で、課題も大きいと考えています。

今回の新たな第二種社会福祉事業では、入退院支援、日常的金銭管理、死後事務支援などが含まれます。しかし、これらは、法的責任、感情労働、倫理的課題を伴う非常に重い業務です。そのため、実務を担う主体となる社会福祉協議会、社会福祉法人、NPOなどに負担が集中する可能性があります。

また、囲い込み、利益相反、不適切契約など、権利擁護上のリスクにも十分注意が必要です。特に、ほかのサービスによる支援と本事業による支援を同時に扱う場合には、利益相反に留意するなど、ガバナンスの強化が必要だと考えます。

さて、今回の改正全体を貫く理念は、地域共生社会です。一方、孤立、孤独、疎外感、これらによる社会の分断が進む中、きれいごとだとも言われています。事実、十年前の二〇一六年七月、相模原の障害者施設十九人殺傷事件が起きました。犯人には障害者への差別意識があり、そこには人間を生産性で判断する価値観があります。ひどい話だと世間はショックを受けましたが、私たちはこの犯人の言葉に明確にノーと言える軸を持っているでしょうか。

私たちは超高齢社会を迎え、認知症は身近な問題です。認知症は、予防できるのは一部分であり、誰にでも起こり得る話です。つまり、この相模原の事件は、誰にでも起こり得る、他人事ではない話だと言えます。

この障害者施設から車で二十分くらいの場所に、社会福祉法人愛川舜寿会があります。他人事ではないと危機感を覚えた馬場拓也理事長は、老人ホームの道路沿いにあった壁を壊し、壁の代わりに花壇を植え、地域に開かれた施設に変革させました。

ある女子学生は、毎日、庭先でたばこを吸っている施設のおばあちゃんから、朝、おはよう、行ってらっしゃいと声をかけられ、また学校から帰ってきたときも、夕方なのに、おはよう、行ってらっしゃいと言われます。あれっと思うわけですよね。何年か過ぎて、その女子学生の母親が馬場理事長に、最近、ここでたばこを吸っていたおばあちゃん、見かけないけどどうしてますかと尋ねて、既に亡くなられた話をしたところ、その女子学生は母親に、おばあちゃんとこんな話をしたんだよとか、認知症っていうんだねなどとよく話していたといいます。そして、現在は、その学生は大学生として、社会福祉士を目指しているとのことです。

認知症のおばあちゃんとの日常での関わりが、結果として一人の社会福祉士を目指す若者を生んだわけです。人は、死んでもなお私たちに影響を与えます。私たちが短期的視点により人を生産性で判断するのは間違っていると、この福祉のリアルは教えてくれます。人は、人との関係性の中で存在意義を持ちます。福祉とは、この関係性を紡ぐ基礎となります。

最後に、福祉人材確保について述べます。

言うまでもなく、最も重要なのは人です。今回の改正は理念として非常に重要ですが、それを実行する福祉人材が不足しています。特に現場では、業務の過重、感情労働、孤立、バーンアウトが深刻です。また、近年は、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、介護職などが、本来制度化されていない生活支援まで担っています。つまり、地域共生社会は、現場職員の献身によって支えられている側面があります。

したがって、処遇改善、ICTの活用を含めた業務整理、キャリア支援、多職種連携を進めなければ、制度理念だけでは持続できないと考えます。また、利用者も担い手も減少する地域が増える中、一事業所、また一職員が多様な機能を発揮できる環境整備や資格取得の融通さも今後の課題です。

今回の改正は、家族依存、縦割り制度、人口増加前提から、日本の環境変化に即した転換を迫る重要な法改正だと考えていますが、財源がなければ絵に描いた餅です。日本の消費税は一〇%ですが、ヨーロッパでは二〇%以上が一般的です。社会保障の財源は消費税だけではなくてほかの税や社会保険料も含まれますが、それらを合算した国民負担率はOECDの平均以下です。財源確保が、この法改正を生かせるかの肝となります。

一方で、忘れてはならないのは、低所得者層に負担となるような税や保険料を徴収している点です。また、非正規職員が被用者保険に加入できずに低年金となる問題を解決するため、社会保障の一層の適用拡大は喫緊の課題です。そもそも国民負担率が高くないのに可処分所得が減るのは、給与が上がらないことに問題があり、最高益を記録し続ける企業が増える中、より一層の賃上げが望まれます。

いたずらに不安をあおるのではなくて、冷静にデータを見詰め、適切に財源を確保し、やるべきことをやることが、社会の分断を防ぐ第一歩です。

SNS時代には、デマやデマによる分断が現実の社会不安につながります。地域の関係を編み直す福祉のリアルは、孤立、孤独、疎外感という分断の芽を摘み、信頼の種をまき続けます。自治体、医療、介護、福祉職員、福祉専門職、地域住民、非営利組織、営利組織が協働し、一方的に支えたり支えられたりではない、互いが支え合う、ケアし合う地域をどう構築するかが今後の大きな課題だと言えます。

以上です。ありがとうございました。(拍手)

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