早稲田大学の菊池でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、平成三十一年四月から令和八年二月まで約八年間、社会保障審議会医療保険部会の部会長代理として、また、令和七年五月からは医療保険部会の下に設置された高額療養費制度の在り方に関する専門委員会の委員として議論に関わってきた立場から、意見を述べさせていただきます。
我が国の医療保険制度は、国民皆保険の理念の下、長年にわたり国民の健康と生活基盤を支えてきましたが、少子高齢化の進行とともに、制度の持続可能性が重要な政策課題となっております。
少子高齢化が我が国に与えたインパクトは非常に大きく、今後、生産年齢人口の急激な減少が見込まれる中にあって、社会保障の領域では、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という高齢者中心型の社会保障の構造を見直し、全ての世代で広く安心を支えていく全世代対応型の社会保障制度を構築するという方向性が示されています。こうした方向性は、医療保険部会でも共有されておりました。
令和二年健康保険法等一部改正、令和五年健康保険法等一部改正と、高齢者にも関わる窓口負担や保険料負担の見直しが行われました。全世代型社会保障に向けた方向性の延長線上で、こうした負担と給付の在り方は、負担能力別負担という基本原則を堅持しつつ、今後も必要に応じて行っていかざるを得ません。
こうした中で、医療分野の特殊性として、最近、がん領域を始めとして、患者の生命を救い、生活の質の大幅な向上をもたらす医薬品や医療技術が次々に登場しています。これらの医療への保険適用は、全ての国民に対する受療機会の実質的平等という医療保険の根本理念から見て、基本的に望ましいものと考えます。
他方で、これらの医薬品は往々にして極めて高額であり、しかも長期間、場合によっては生涯にわたって継続使用することが必要となるケースも少なくありません。今後もこうした高額医薬品が続々と登場することが見込まれる中で、医療保険制度全体の持続可能性をどのように確保するのかという課題を避けて通ることはできません。
重要なのは、社会保険制度として、限られた保険財源を、医療保障として真に必要な分野に重点的に配分し、給付と負担のバランスを社会経済の実態に即して調整していくということです。
昨年十二月、取りまとめられた医療保険部会の議論でもこうした認識は共有されており、本法案は、そうした方向性を具体化するものとして評価できるものと考えております。
以下三点、意見を述べさせていただきます。
第一に、OTC類似薬の保険給付範囲の見直しです。
OTC類似薬をめぐる議論は、医療保険における給付の重点化を象徴する論点の一つです。日常的な医療について、医療保険制度を使わず、ドラッグストアで販売されている一般用医薬品を自ら購入し、使用している方がおられることを踏まえ、一定の自己負担を徴収するという今回の見直しは、医療給付の重点化を進める上ではやむを得ない方向性と考えます。
ただし、保険給付から完全に外すといったドラスチックな改革は行うべきでなく、医療保険部会でも、がん、難病、アトピー疾患の患者さんなど関係者の声も伺った上で、保険給付から完全に外すのではなく、また、該当する医薬品について画一的に見直すのでもなく、医療上の必要性などを踏まえた丁寧な配慮措置を講じる方針が示され、新設の六十三条八項で配慮すべき事項が示されました。
保険外併用療養費のうち、将来的な保険収載を前提としない選定療養には様々な性格のものが含まれており、整理が必要と考えておりますが、今回、一部保険外療養という形で別建てとすることには賛成です。具体的な対象医薬品の範囲や配慮すべき患者の具体的基準などは大臣の判断に委ねられていますが、検討に当たっては、医学、薬学等の専門家や患者などの意見も聞きながら進める枠組みを設定することが必要と考えます。
第二に、出産給付の見直しです。
出産費用が上昇し、地域差や施設間の差が顕著になっている中で、全国一律の出産育児一時金という現金給付で、誰もが安心して分娩、出産に関わるサービスを享受できる環境を医療保険制度として確保することはもはや困難です。このため、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、保険者から医療機関等に対して直接支給する方式にするという今回の見直しは、妊婦さんの経済的負担を確実に軽減するためにも適切なものと考えます。
今後の課題として、医療機関等に直接支給する新しい方式を導入する際、従来の現金給付も経過措置として認めるということですが、新制度への移行に関して相応の準備期間が必要であるとしても、制度の整合性を確保するという観点からは、二つの方式の併存期間はできるだけ早期に解消できるよう、新制度の給付水準に優位性を持たせるなどの取組が求められると考えております。
第三に、高額療養費の見直しです。
この制度は、医療費が高額となった場合、家計を破綻から守るための、医療保険制度における最後のセーフティーネットであり、その基本的な役割は今後も堅持されるべきであることは言うまでもありません。
一方で、冒頭申し上げたとおり、患者さんの生命を救い、QOLの向上をもたらす優れた医薬品は往々にして高額であり、今後も続々登場することが見込まれることからすれば、医療保険制度の持続可能性の観点からも対応策を考えざるを得ません。
今回の法案では、制度の根幹を維持しつつ、新たに、長期に療養する方への配慮を求める旨の文言を百十五条二項に追加しています。また、政令以下に委ねることにはなりますが、政府として、こうした法改正の精神を踏まえ、多数回該当限度額を据え置き、新たに年間上限を設け、また、以前からの宿題であった、所得三百七十万円未満の課税世帯について多数回該当の限度額を引き下げるといった給付改善もなされることになりました。年間上限の所得の刻みを更に細分化するなど、今後の課題は残りますが、こうした見直しは、負担の在り方をより精緻化し、制度の公平性と持続可能性を高める改革と位置づけられます。
最後に、制度改正の議論を行う際の当事者とされる方々との関係について、一言したいと思います。
一枚物の紙が先生方のお手元にあるかと思いますが、医療保険制度は、国民誰もがライフステージを通じて関わり得る重要な社会的インフラです。私は、物事に直接関わりを持つ当事者とそれ以外の非当事者を固定的かつ二項対立的に捉えるのではなく、その間に立つ、共に事に当たるという意味での共事者という視点、これは福島県いわき市の地域活動家である小松理虔さんが編み出した造語ですが、この共事者という視点が制度への理解と納得を形成する上で重要であると考えます。
現在は直接の当事者でない人も、保険料を納付する立場にあり、将来的には患者となり、親となり、あるいは介護や出産を支える立場になる可能性があります。同時に、現在患者である方も保険料を負担する立場にあります。
制度改正をめぐる議論が特定の立場の利害対立として受け止められると、多くの直接の当事者でない人は、自らを非当事者として距離を置いてしまいます。その溝を埋めるためには、実体面の妥当性とともに、直接、間接に影響を受ける人々の声をどのように聞き、反映させるのかという手続面の工夫が欠かせません。
昨年五月以降開催された専門委員会は、患者団体、保険者、医療従事者、学識者など、多様な関係者が委員として参画する中で議論を進めました。今後もこうした取組を継続することを期待しています。
薬害のような国家補償、損害賠償的な側面を持つ課題への対応と異なり、みんなで支え合う社会連帯の理念を基盤に置く医療保険制度の在り方を議論するには、当事者の意見を傾聴するという姿勢を大切にしながらも、制度を支える関係者も加わった今回の専門委員会のような場で、共事者の視点も大切にした制度設計と検討プロセスが、長い目で見た医療保険制度への国民の理解や支持を確固たるものにしていくことにつながるものと期待しております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
4
大串正樹(自民)
この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
本案審査のため、本日、参考人の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
この発言のページ
5
大串正樹(自民)
御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
なお、ただいまお諮りいたしました件につきましては、内閣提出、健康保険法等の一部を改正する法律案についての参考人から併せて意見を聴取いたしますので、御了承願います。
―――――――――――――
この発言のページ
6
大串正樹(自民)
内閣提出、健康保険法等の一部を改正する法律案及び浜地雅一君外三名提出、全ての国民が安心して医療を受けられる環境の整備を図るための高額療養費等の制度の在り方に係る措置に関する法律案の両案を一括して議題といたします。
本日は、両案審査のため、参考人として、早稲田大学法学学術院教授、早稲田大学理事菊池馨実君、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会代表理事大黒宏司君、健康保険組合連合会顧問佐野雅宏君、日本労働組合総連合会副事務局長林鉄兵君、全国保険医団体連合会理事・政策部部長、東京保険医協会副会長中村洋一君、以上五名の方々に御出席をいただいております。
この際…
この発言のページ
- (上の発言)
7菊菊池馨実早稲田大学法学学術院教授/早稲田大学理事
早稲田大学の菊池でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、平成三十一年四月から令和八年二月まで約八年間、社会保障審議会医療保険部会の部会長代理として、また、令和七年五月からは医療保険部会の下に設置された高額療養費制度の在り方に関する専門委員会の委員として議論に関わってきた立場から、意見を述べさせていただきます。
我が国の医療保険制度は、国民皆保険の理念の下、長年にわたり国民の健康と生活基盤を支えてきましたが、少子高齢化の進行とともに、制度の持続可能性が重要な政策課題となっております。
少子高齢化が我が国に与えたインパクトは非常に大きく、今後、生産年齢人口の急激な減少が見込まれる中にあって、社会保障の領域では、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という高齢者中心型の社会保障の構造を見直し、全ての世代で広く安心を支えていく全世代対応型の社会保障制度を構築するという方向性が示されています。こうした方向性は、医療保険部会でも共有されておりました。
令和二年健康保険法等一部改正、令和五年健康保険法等一部改正と、高齢者にも関わる窓口負担や保険料負担の見直しが行われました。全世代型社会保障に向けた方向性の延長線上で、こうした負担と給付の在り方は、負担能力別負担という基本原則を堅持しつつ、今後も必要に応じて行っていかざるを得ません。
こうした中で、医療分野の特殊性として、最近、がん領域を始めとして、患者の生命を救い、生活の質の大幅な向上をもたらす医薬品や医療技術が次々に登場しています。これらの医療への保険適用は、全ての国民に対する受療機会の実質的平等という医療保険の根本理念から見て、基本的に望ましいものと考えます。
他方で、これらの医薬品は往々にして極めて高額であり、しかも長期間、場合によっては生涯にわたって継続使用することが必要となるケースも少なくありません。今後もこうした高額医薬品が続々と登場することが見込まれる中で、医療保険制度全体の持続可能性をどのように確保するのかという課題を避けて通ることはできません。
重要なのは、社会保険制度として、限られた保険財源を、医療保障として真に必要な分野に重点的に配分し、給付と負担のバランスを社会経済の実態に即して調整していくということです。
昨年十二月、取りまとめられた医療保険部会の議論でもこうした認識は共有されており、本法案は、そうした方向性を具体化するものとして評価できるものと考えております。
以下三点、意見を述べさせていただきます。
第一に、OTC類似薬の保険給付範囲の見直しです。
OTC類似薬をめぐる議論は、医療保険における給付の重点化を象徴する論点の一つです。日常的な医療について、医療保険制度を使わず、ドラッグストアで販売されている一般用医薬品を自ら購入し、使用している方がおられることを踏まえ、一定の自己負担を徴収するという今回の見直しは、医療給付の重点化を進める上ではやむを得ない方向性と考えます。
ただし、保険給付から完全に外すといったドラスチックな改革は行うべきでなく、医療保険部会でも、がん、難病、アトピー疾患の患者さんなど関係者の声も伺った上で、保険給付から完全に外すのではなく、また、該当する医薬品について画一的に見直すのでもなく、医療上の必要性などを踏まえた丁寧な配慮措置を講じる方針が示され、新設の六十三条八項で配慮すべき事項が示されました。
保険外併用療養費のうち、将来的な保険収載を前提としない選定療養には様々な性格のものが含まれており、整理が必要と考えておりますが、今回、一部保険外療養という形で別建てとすることには賛成です。具体的な対象医薬品の範囲や配慮すべき患者の具体的基準などは大臣の判断に委ねられていますが、検討に当たっては、医学、薬学等の専門家や患者などの意見も聞きながら進める枠組みを設定することが必要と考えます。
第二に、出産給付の見直しです。
出産費用が上昇し、地域差や施設間の差が顕著になっている中で、全国一律の出産育児一時金という現金給付で、誰もが安心して分娩、出産に関わるサービスを享受できる環境を医療保険制度として確保することはもはや困難です。このため、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、保険者から医療機関等に対して直接支給する方式にするという今回の見直しは、妊婦さんの経済的負担を確実に軽減するためにも適切なものと考えます。
今後の課題として、医療機関等に直接支給する新しい方式を導入する際、従来の現金給付も経過措置として認めるということですが、新制度への移行に関して相応の準備期間が必要であるとしても、制度の整合性を確保するという観点からは、二つの方式の併存期間はできるだけ早期に解消できるよう、新制度の給付水準に優位性を持たせるなどの取組が求められると考えております。
第三に、高額療養費の見直しです。
この制度は、医療費が高額となった場合、家計を破綻から守るための、医療保険制度における最後のセーフティーネットであり、その基本的な役割は今後も堅持されるべきであることは言うまでもありません。
一方で、冒頭申し上げたとおり、患者さんの生命を救い、QOLの向上をもたらす優れた医薬品は往々にして高額であり、今後も続々登場することが見込まれることからすれば、医療保険制度の持続可能性の観点からも対応策を考えざるを得ません。
今回の法案では、制度の根幹を維持しつつ、新たに、長期に療養する方への配慮を求める旨の文言を百十五条二項に追加しています。また、政令以下に委ねることにはなりますが、政府として、こうした法改正の精神を踏まえ、多数回該当限度額を据え置き、新たに年間上限を設け、また、以前からの宿題であった、所得三百七十万円未満の課税世帯について多数回該当の限度額を引き下げるといった給付改善もなされることになりました。年間上限の所得の刻みを更に細分化するなど、今後の課題は残りますが、こうした見直しは、負担の在り方をより精緻化し、制度の公平性と持続可能性を高める改革と位置づけられます。
最後に、制度改正の議論を行う際の当事者とされる方々との関係について、一言したいと思います。
一枚物の紙が先生方のお手元にあるかと思いますが、医療保険制度は、国民誰もがライフステージを通じて関わり得る重要な社会的インフラです。私は、物事に直接関わりを持つ当事者とそれ以外の非当事者を固定的かつ二項対立的に捉えるのではなく、その間に立つ、共に事に当たるという意味での共事者という視点、これは福島県いわき市の地域活動家である小松理虔さんが編み出した造語ですが、この共事者という視点が制度への理解と納得を形成する上で重要であると考えます。
現在は直接の当事者でない人も、保険料を納付する立場にあり、将来的には患者となり、親となり、あるいは介護や出産を支える立場になる可能性があります。同時に、現在患者である方も保険料を負担する立場にあります。
制度改正をめぐる議論が特定の立場の利害対立として受け止められると、多くの直接の当事者でない人は、自らを非当事者として距離を置いてしまいます。その溝を埋めるためには、実体面の妥当性とともに、直接、間接に影響を受ける人々の声をどのように聞き、反映させるのかという手続面の工夫が欠かせません。
昨年五月以降開催された専門委員会は、患者団体、保険者、医療従事者、学識者など、多様な関係者が委員として参画する中で議論を進めました。今後もこうした取組を継続することを期待しています。
薬害のような国家補償、損害賠償的な側面を持つ課題への対応と異なり、みんなで支え合う社会連帯の理念を基盤に置く医療保険制度の在り方を議論するには、当事者の意見を傾聴するという姿勢を大切にしながらも、制度を支える関係者も加わった今回の専門委員会のような場で、共事者の視点も大切にした制度設計と検討プロセスが、長い目で見た医療保険制度への国民の理解や支持を確固たるものにしていくことにつながるものと期待しております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
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大串正樹(自民)
ありがとうございました。
次に、大黒参考人にお願いいたします。
この発言のページ
9大大黒宏司一般社団法人日本難病・疾病団体協議会代表理事
よろしくお願いします。
ただいま御紹介賜りました一般社団法人日本難病・疾病団体協議会代表理事の大黒宏司と申します。
本日はこのような意見陳述の機会をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。
資料をおめくりいただいて、二ページ目をお願いいたします。
私ども日本難病・疾病団体協議会は、難病や長期慢性疾患、小児慢性疾患の患者会及び各都道府県を中心に地域で活動する地域難病連から成る、計百五団体、延べ十七万人で構成される全国組織です。私自身も、膠原病という患者の本人です。
私は、社会保障審議会医療保険部会の下に設置された高額療養費制度の在り方に関す…
この発言のページ
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大串正樹(自民)
ありがとうございました。
次に、佐野参考人にお願いいたします。
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