渡井理佳子慶應義塾大学大学院法務研究科教授

2026年6月4日・第221回国会 参議院 内閣委員会 第13号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 5 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 91 発言)

ありがとうございます。

本日は、貴重な機会を頂戴いたしまして、感謝申し上げます。慶應義塾の渡井理佳子と申します。

私は、行政法を専門にしております。研究のテーマといたしましては、安全保障の見地からの投資規制に関心がございまして、最近では、日本製鉄によるUSスチールの買収の問題などに関心を持っておりました。

経済安全保障につきましては、大変微力ながら、経済安全保障法制に関する有識者会議に参加させていただいております。この度の三年見直しの結果である改正法案は、これまでの取組を更に進めていく上で必要な内容であり、適切なものであると考えております。

それでは、お配りいたしました資料に沿ってお話し申し上げます。既に御案内のとおりではございますが、ⅠとⅡのところで改正法案の内容について簡単にコメントをさせていただき、二ページ目のⅢとⅣのところで行政法学の観点から私見を申し述べます。

まず、Ⅰの改正の必要性についてでございます。

経済安全保障が重視されるようになった背景は、冷戦終結後に、日本とは政治経済体制を異にする国々もWTOなどの自由貿易体制を基本とする国際経済体制に参加してきたことや、最近ではグローバルサウスの経済成長もあって、経済のグローバル化と相互依存性が飛躍的に高まってきたことがございます。もちろん、日本も自由貿易の結果として、外国の経済と密接な関係を持つようになってまいりました。

今後も、その市場に競争力を持つ国が投資規制や輸出管理といった措置を用いて市場の支配を試みることが予想されます。この現象は、経済の武器化であるとかエコノミック・ステートクラフトと呼ばれますけれども、これに対して日本は、国家安全保障戦略の指摘にもございますように、平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じて確保していく必要がございます。

つまり、日本にとって重要なのは、この経済安全保障推進法の下で、戦略的自律性と戦略的不可欠性を高める取組を引き続き進めていくことにあると考えております。

次に、二番目の主な改正点のところでございますが、五つの改正点は有識者会議の提言に基づくものであって、適切なものであると考えております。

まず、(1)のその重要な物資の安定的な供給の確保はサプライチェーンの強靱化の問題でございますが、まず、物資の供給に不可欠な役務を支援措置の対象に加えるということになっております。これまで支援措置の対象は物資に限られておりましたけれども、物資が機能を発揮するためには、必要な役務もまた外部依存性や供給の途絶がないようにすることが課題となるはずです。

有識者会議の提言では、国際海底ケーブルの敷設船を例にしておりました。国際海底ケーブルについて一言申し上げますと、日本は、地理的に、アメリカとアジア諸国を結ぶ最短ルート上に位置しております。そのために、国際海底ケーブルのハブとなってまいりました。最近では、国際海底ケーブルの担い手が多様化したこともあって、日本を経由しないルートも増えてきていると聞いておりますけれども、日本の強みを維持して安定的な供給体制を確保するためには、事業主体である民間事業者と行政とが連携して取り組んでいくことが重要であると考えております。

そこで、(1)の二点目のところですけれども、もちろん国が主導する仕組みというのも考えられますが、民間事業者の自主性を支援するためには、特定重要物資の安定供給の確保に支障が生じるおそれがある場合に努力義務や協力要請のための規定をまずは整備して対応を図っていくということには合理性が認められると考えております。

次に、二点目、(2)のところに参ります。

基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関して、医療分野を追加することと制度運用を改善することがございます。医療は、重要な保護法益である国民の生命と身体を守るための身近なインフラであって、国民の側からしますと、安定的な供給が何よりも求められている領域です。医療のデジタル化とネットワーク化が進めば、サイバー攻撃によって安定的な供給に大きな影響が生じることが予想されますので、医療分野の追加は重要であると考えております。

対象については、地域の最後のとりでとしての医療機能を持つ機関ということで、特定機能病院を念頭に指定するということになっておりますけれども、やはり医療が重要なインフラであるということを踏まえますと、将来的には、負担を考えつつも指定の範囲をもう少し広げていく必要性があるのではないかと考えております。

(3)のところ、三つ目に参ります。

先端的な重要技術の開発支援については、指定基金協議会を設置できる基金の対象を拡大することによって、様々な研究実施主体がその特性に応じて機動的に研究開発を行うことができるようになるものと思います。

(4)の四つ目でございますが、これまでサプライチェーンの強靱化についての支援措置が主に国内向けであったのに対し、この度は重要な海外事業の展開制度をJBICが新たに設けるということで、海外での日本のプレゼンスを高める仕組みと評価することもできるように思います。重要な支援対象となる海外事業を実施するために、損失リスクを政府が引き受けて民間投資を呼び込んでいくことで、同盟国や同志国を始め多くの国々との協働が期待できるものと思います。

五点目、五つ目でございますが、総合的な経済安全保障シンクタンクと官民協議会の新設でございます。

総合的なシンクタンクでは、経済や技術に加えて防衛や外交も含めた幅広い観点から研究が行われるということで、私の研究テーマであります投資規制の分野においても、外為法の改正案が先日成立して日本版CFIUSが運用されるということでございますけれども、このような省庁横断的であり分野横断的な枠組みというのは、この複雑化する現代の安全保障課題に対応する上で不可欠であると考えております。

官民協議会については、政府から民間に向けての情報共有のチャンネルが確保できるようになることで、急に安全保障上の問題が生じた際にも連携しての対応ができるようになるものと思います。

そして、総合的な経済安全保障シンクタンクと官民協議会と、そしてもちろん重要技術戦略研究所が連携して、サプライチェーンの問題、基幹インフラの問題の両方について十分な分析が可能になるものと期待しております。

それでは、二ページ目に参りまして、行政法の視点からの経済安全保障推進法について少しお話し申し上げます。

まず、法的統制というところでございますけれども、経済安全保障では、何か既に起こったことへの対応というよりも、まだ起きていない安全保障上のリスクを未然に除去することが重要な意味を持っております。そのため、まだ起きていないことへの対応であるだけに、必要以上に民間に対して負担を掛けることがないよう法的な制御が求められる領域と言うことができます。この点、経済安全保障法の仕組みは大丈夫であるのかということが問われるはずです。

経済安全保障推進法は、戦略的自律性と戦略的不可欠性を確保するために、支援策と規制策の両方を用いています。規制策の一つには、基幹インフラ機能の安全性の確保の領域がございます。サイバー攻撃といった妨害行為を未然に防止するために、重要な設備の導入と維持管理の委託について対象事業者に事前届出を求めて審査を行い、結果として妨害行為を防止するということになりますが、対応を要する場合には勧告が出され、それに応じない場合には命令が出されることになっています。

この仕組みはほかの経済安全保障法制でも見られますが、審査付きの事前届出制であって、許可制ではないというところに特徴があると思います。許可制であれば、活動は一般的に禁止されていて、必要な要件を満たしたときに禁止が解除されます。身近な例ですと、運転免許で例えれば、免許なしの運転は一般に禁止されておりますけれども、必要な知識や技能を身に付ければ、禁止が解除されて運転ができるようになります。

今のこの許可制の仕組みと比較した場合、事前届出制の場合には一般的な禁止という部分がないわけで、経済活動は自由であるということが経済安全保障推進法の規制策の前提となっているということが見て取れると思います。

次に、(2)のところ、経済安全保障推進法の評価でございますが、法律の正式名称は経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律ですので、一体的に取り上げるならば、規制の手法として許可制を中心に据えて政策の実効性をより高めることも可能であったと思います。実際には支援策も多用されておりますし、調査、協力の規定についても罰則が設けられているわけではございません。つまり、経済安全保障推進法は、国際経済秩序や自由な経済活動といった価値を保護法益として重視していることがうかがえると思います。

国際状況からは経済安全保障推進法に更なる措置を加える必要が生じることが予想されますが、それが衆議院での御審議の過程における修正案であると理解しております。政府が速やかに国や国民の安全を損なう事態を防止するための必要な措置の在り方を検討するということですが、厳しい規制措置をとっていないことからも、採用していないことからも、随時の見直しが必要なケースであると思っております。

終わりにという四番のところに参ります。最後に、今後の課題につけて少し触れてまいります。

私はこの度の改正案に賛成でございますが、重要なのは、この法律の実効性を確保することにあると思います。経済安全保障推進法に関する一連の法制度は、経済安全保障推進法のほかにも、重要土地等調査法や外為法、そしてもちろん個別の事業法がございます。それぞれの対象領域を適切に分担しながら、規制の重複や空白部分を生じさせることなく相互に補完し合うようになっているということが必要ではないかと考えております。

そして、(2)のところ、データセキュリティーでございますが、有識者会議の提言ではデータセキュリティーの問題が挙がっておりました。何が保護に値するデータであるのかについては今後慎重な議論が必要になると思いますが、民間企業が保有する機微な個人に関するデータは、今ある法制度では十分に保護できる状況にないのではないかと考えております。今後、遺伝子情報ですとか信用情報は確実に問題になってくると思いますし、データセンターに対する規律も必要になるものと思いますが、サイバーセキュリティーと同様に、データセキュリティーについても経済安全保障の観点から多角的に捉えていく必要があると思います。

そこで、(3)日本の役割というところでございますが、外国であることや日本でないことというのが直ちに安全保障上のリスクをもたらすわけではございません。経済安全保障推進法が経済活動の自由を重視していることは、投資や貿易の自由の促進につながるものであって、同盟国間の結束を強めるとともに、日本が投資や貿易のルール作りを主導することにつながると考えております。

もちろん、その安全保障上のリスクに対する政策について求められていることが幾つかあると、五つあるというふうに考えておりまして、一つは目的が明確であること、二つ目は判断基準が一貫していること、そして三つ目は真に必要な範囲に限定した措置をとっていること、四つ目は国際協調を保っていること、そして最後五つ目は、政策の効果とそして副作用を継続的に検証するということが求められているものであると考えております。その意味では、経済安全保障推進法もこれが三年目の見直しだったわけですが、引き続き、見直しと検証を要するものと考えております。

私の発言は以上でございます。どうもありがとうございました。

前後のやりとり

1の発言を見る

9の発言を見る